論考「遥かなるメコンを越えて ナーンの旅、そしてプーミン寺壁画」⑩

論考「遥かなるメコンを越えて ナーンの旅、そしてプーミン寺壁画」
第6章 ナーンへの道 その3(パヤオ、チェンムアン ルート)前編

(蔵屋敷滋生 くらやしき・しげお 投稿時:出版社役員,59歳、千葉県柏市在住)

(写真下: パヤオ湖でのソンクラーン風景)

長々と「ナーンへの道」を紹介しました。そろそろ本題に入ります。話は今年(2001年)の2月9日から15日までのナーン紀行である。ただし、行きと帰りにチェンマイにそれぞれ1日しか滞在しないので、ほとんどはナーンとプアの話となる。そのうち今回は、ナーンのワット・プーミン壁画についてDavid K.Wyatt『Temple Murals as an Historical Source  The Case of Wat Phumin,Nan』を要約して紹介しようと考えている。

もちろんプーミン寺の壁画を解説している書籍でボクが知る(正確には知らされた)唯一のもの、との理由で紹介するに過ぎない。つまり「最も権威ある解説書」なんて判断したわけではない。したがってプーミン壁画を別の視点から調査したものがあって、まったく別の解釈がされていてもいいと思う。D.K.ワヤット氏がプーミン壁画解説の先駆者であるS.シマトラン氏の著作を批判しているように、先人の功績を踏まえて研究した「後発の人」が有利に決まっていると思うからだ。学問は「積み重ね」と言われるのもそういう意味だと思う。だから学者は「自説に謙虚」でなければならないのです。長い間、出版界で働いていると、そんな余計なことまで考えてしまう。

最後に真実に到着すればそれでいいのではないでしょうか。ただ、ワヤット氏が「タイ族の歴史」からプーミン壁画を見つめ直した視点に賛意を称したい。ややもすると芸術的な側面(色彩、技法、時代考証など)だけで終わってしまう壁画の研究を、文学(ジャータカ物語)、歴史(年代記など)の3点から調査・研究し、論文にまとめ上げた功績は評価されていい。そして何よりもボクがナーンで感じていたことと、ワヤット氏が到達した壁画が示す「結論」が似ていたという点に共感した(彼が指摘する「直接の原因」は大いに疑問であるが)。むろん全面的に承諾しているわけではない。疑問を禁じ得ない面も多々ある。そのことについては本文の最後にまとめることにする。そんなことが本書を紹介しようと思ったいきさつである。本題までもう少し時間をちょうだいしボクのナーンの話を続けたい。

なお、ナーンまではチェンマイから飛行機の手もある。時間の無い方には便利だ。しかしボクは、道中人とのふれあいができない、そこに住む人の顔がみえない、なんといっても途中下車が適わない、などでいつもパスしている。つまり空からの風景も捨てがたいが、「生活」が見えないので好きでないのだ。はっきり言えば嫌なのだ。旅の醍醐味は、そこに住む人との「交流」、「ふれあい」にあると思っている。たとえ通り過ぎるだけの旅でも跳び越して行きたくはない。

再び話はチェンマイに戻る。せっかくナーンに着いたのにと思わないでください。まだ2月10日にチェンマイの定宿を出たところです。最初に紹介した通り最も近いルートといってもナーンまでは338キロ、約6時間の行程です。アッチコッチと止まったり、訪れたりするから10時間はかかるでしょう。それほどこのルートはお楽しみどころに富んでいるのです。

(写真:チェンマイ→メカチャンで右折。ワンヌアでブレイクタイム)
ルートはチェンマイから118号線でチェンライ方面に向かい、約50キロ先のメカチャンで右折し、120号線をパヤオ方面に東進。山裾を巡る快適なドライブになるはずが、区間の一部が幅員拡張工事のためラテライトの土埃に見舞われる(今年の2月央現在)。遠くの山々や突然の滝など眺めながら約64キロでバンコク→チェンライを結ぶ国道1号線に出る。ここを左折するとパヤオ市内まで16キロ。だが、市内に入る途中で左折・1021号に方向転換する。ここまででもチェンマイ、チェンライ、ランパーン、パヤオのチャンワットをスルーしたことになる。

パヤオ湖では昨年4月のソンクラーン時に大変な目にあった。車のドアと窓もきっちりと閉めていたのに、放水の集中で車内はグッショリ、フロントガラスはカラーペイントされていた。とにかく投げかける水は湖の側だからふんだんにある。とてもお釈迦様の気分にはなれず、終始閻魔顔にならざるをえなかった。どうやらこの年になっても「人間未完成」であるらしい。

(写真: パヤオ。ワット・シー・コム・カム。北対最大の大仏を奉る本堂。)
パヤオ湖岸には1491年創建の荘厳なワツト・シー・コム・カムがある。北部最大の身長17メートルの大仏様が鎮座ましますが、ボクは境内に転がる首のない石仏に興味を持っている。この地は伝承によると11世紀末にチェンセンの王族によってムアン(緩やかな部族連合体)・パヤオとして建国された。13世紀にンガムムアン王は、北のムアン・チェンマイ、南のスコータイ王国と連合し、ナーンを支配した時代もあつた。だがまだ全行程の半分しか来ていないので先を急ごう。パヤオ国が気になる人のために下記のHPを紹介しておきたい。

メコン圏の地方に触れあう パヤオ県(その1) http://www.bangkokshuho.com/articles/mekon/mekon823.htm

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
  2. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  3. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  4. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
  5. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  6. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
  7. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  8. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  9. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
ページ上部へ戻る