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メコン圏が登場するコミック 第3回「ゴルゴ13 ラオスのけし」(さいとう・たかを 著)
- 2003/12/10
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メコン圏が登場するコミック 第3回「ゴルゴ13 ラオスのけし」(さいとう・たかを 著)
「ゴルゴ13 ラオスのけし」(さいとう・たかを 著、リイド社) 麻薬のアジアルートを握る男の抹殺を依頼されたゴルゴが、ラオスとシャン高原で活躍する1971年作品
本書は、世界をまたにかけて活躍する狙撃のプロフェッショナル、ゴルゴ13(サーティーン)のSPコミックシリーズ第9巻。本書にはタイトルとなっている「ラオスのけし」を始め、1970年~1972年に発表した作品、計5編が収められている。本書の最初に収録されている作品『ラオスのけし』は、1971年2月作品で、主にラオスのヴィエンチャンとシャン高原を舞台に、ゴルゴ13の活躍を描いている。
”ラオスには、ふたつの都がある。偉大なる黄金仏の都といわれる王都ルアンプラバン、そして政治首都ビエンチャンである。”という書き出しで、革命前のヴィエンチャンで、ラオス人娼婦とベッドを共にするゴルゴ13の登場で、ストーリーが始まる。ゴルゴ13は、CIA(米中央情報局)から、カナダの監獄に入った麻薬王リバルト・ルーセンの後釜として、新しく麻薬のアジアルートを握っている経歴不明の”Q”と呼ばれる男の抹殺を依頼され、東京、バンコク経由で、ヴィエンチャンに潜入していた。ゴルゴ13以前に、この新しいアジアルートの調査に向かったCIA工作員たちが、次々と失踪、或いは殺害されており、ゴルゴ13のアシストとして別ルートで先にヴィエンチャンに向かい、休暇で東南アジアを旅行中のアメリカ人スチュワーデスに扮していたCIA女工作員ヘレン・スミスもまたビエンチャン市内で、GRU(ソ連軍事情報機関)の非合法工作員の手により、暴行殺人にみせかけ殺害されてしまった。
ゴルゴ13は、CIAの事前の指示どおり、オントウ寺院裏にある”ラ・プペの店”に向かい、連絡(コネクション)を待った。ここでゴルゴ13を待ち受けていたのは、ビルマ、タイ、ラオス、雲南省が境を接するビルマ東北部のシャン高原に行き、ヘロイン軍団のジェネラル(将軍)・リーに会うようにという指令であった。李文煥将軍のもと、4千の部下がシャン高原の山岳地帯にたてこもって、けしを栽培し、アヘン、モルヒネからヘロインまで精製していた。CIAは、麻薬のアジアルートを握り、トン単位でアヘン、モルヒネを世界に流し私腹をこやしている”Q”の正体を自分たちの手でつかむのをあきらめ、麻薬の生産者である李将軍と話をつけて”Q”の正体を聞き出すつもりでいた。
ビルマ陸軍も中共軍も近寄れないヘロイン軍団根拠地にゴルゴ13が向かうことは、”ラ・プペの店”のCIA工作員から李将軍に連絡が為された。こうして、ゴルゴ13はシャン高原に入り李将軍と会って、”Q”と呼ばれる男の正体をつかもうとするが、CIA工作員から精神錯乱を引き起こすLSD25を使って情報を吐き出させたGRU(ソ連軍事情報機関)の非合法工作員たちも、ゴルゴ13をいぶり出す為に、”Q”と連絡をとり、シャン高原に向かうことになるが・・・。
尚、本作品のタイトルで本書のタイトルともなっている、「ラオスのけし」とは、 ”シー・ドラゴン”の暗号名でヴィエンチャン入りしたゴルゴ13が、連絡をとるCIA工作員の暗号名で、この工作員が、”ラ・プペの店”のマダム・イヴォンヌで、とてもセクシーな美女だ。CIAからこの女工作員「ラオスのけし」宛ての緊急暗号電文では、”ジャールのけしの花を残らずつめ”と、麻薬のアジアルート壊滅を命じている。ジャールについては、本作品の冒頭で、”けし栽培地として名高いラオスのジャール平原をめぐって、ラオス政府軍とパテト・ラオ(ラオス愛国戦線)軍、それに北ベトナム混成軍との死闘が、何回となくくり返されている”とCIAの男のセリフの中で述べられている。また、”アメリカ空軍は、1ヶ月のべ12500機の戦闘爆撃機を投じ、ベトナム北爆を上まわる大量の爆弾をジャール平原にただきこんだ。にもかかわらずジャール平原はパテト・ラオ軍に完全に制圧されるにいたっている・・”と、GRU工作員のボスのセリフでも語られている。
ゴルゴ13は、ニクソンのグアム・ドクトリンに関連した形で、USOM(アメリカ経済援助機構)の一員としてラオスに入っているが、革命前のビエンチャンの様子も、米ソの工作員が暗躍したり、元フランス外人部隊の男など、金・酒・女・麻薬にまみれた外人たちがたむろする酒場が描かれていたりする。CIAの指令でゴルゴ13が会う事になる李文煥将軍については、実在は国民党残党の将軍だ。
尚、本書に収録されている別の作品『誕生日に白豚を殺せ!!』(1972年2月作品)は、ニューヨークを舞台とした作品で、黒人解放運動の指導者クイン牧師を殺されたジャクソン神父が、暗殺を陰で采配を振った人種差別主義者のリーダーへの復讐を、ゴルゴに依頼する。ゴルゴは標的(ターゲット)の正体を知る男に接触するが、その男ジム・ホーキンスは、ベトナム帰還兵で黒人居留区に住む麻薬常習者だった。彼はベトナム兵役中、所属のアメリカ軍幹部の命でベトナム民衆虐殺に加わり、帰還後も虐殺の悪夢にさいなまされていた。また北ベトナム軍の総攻撃の前に、幹部が部下を見捨て戦線離脱した中隊から、奇跡的に生き延び帰還した一等兵だった・・・。
SPコミックシリーズ 『ゴルゴ13シリーズ⑨・ラオスのけし』 目次
■「ラオスのけし」 <1971年2月作品>
■「デス・バレイ」 <1972年10月作品>
■「内陸地帯」 <1970年2月作品
■「誕生日に白豚を殺せ!!」 <1972年2月作品>
■「暗い街灯の下で」 <1970年7月作品>■「ラオスのけし」目次
・PART 1 おしゃべりな女
・PART 2 暗号名(サイファネーム)はシー・ドラゴン
・PART 3 3枚のチャート
・PART 4 ラ・プペの店
・PART 5 連絡(コネクション)
・PART 6 ヘロイン軍団
・PART 7 一級工作員(トップ・エージェント)
・PART 8 深層面接 (デプスインタビュー)
・PART 9 将軍リー
・PART 10 你好
・PART 11 そのあとのゲーム
・PART 12 ミスター”Q”
・PART 13 かえ玉作戦
・PART 14 あの男は!?本書収録作品の主な登場人物
・ゴルゴ13
・CIAの男
・ローラ・シモンズ(CIA女工作員)
・イヴォンヌ
・ラオスの娼婦
・元仏外人部隊兵士
・ラ・プペのバーテン
・GRU工作員のボス
・ユーリー(GRU工作員)
・セルゲイ(GRU工作員)
・李文煥将軍
・梨香(刺客の中国女)
・ミスター”Q”
・ミスター”Q”の替え玉■本書収録の別作品
『誕生日に白豚を殺せ』の巻頭の文章引用
「この事件は米国で何かが間違っているという、もう一つの証拠を示すものだ」マスキー上院議員
このことばは最近、ニューヨーク州アチカ刑務所暴動武力鎮圧事件を評するものである。数年前、全米をゆるがせた大都市における黒人暴動はここ一両年、かげをひそめてはいるが、ニューヨークでは黒人過激派の組織的警察官襲撃事件が続発しているという。ベトナム復員兵の麻薬常習問題を含めて病めるアメリカの姿がそこにある。黒人、さらにはプエルトリコ人たちの差別感は隔離された社会の中にいっそう凝縮された形でうっ積する・・・