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メコン圏が登場するコミック 第10回「美味しんぼ・タイ米の味」(作:雁屋 哲、画:花咲アキラ)
- 2005/7/10
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メコン圏が登場するコミック 第10回「美味しんぼ・タイ米の味」(作:雁屋 哲、画:花咲アキラ)
「美味しんぼ -タイ米の味ー」(【ビッグコミックス・第49集】作・雁屋 哲、画・花咲アキラ、1995年2月発行、小学館 )
コミック「美味しんぼ」は、グータラ社員ではあるが食に対する造詣が深い東西新聞文化部の山岡士郎と、山岡士郎の公私にわたる良きパートナーである栗田ゆうこの東西新聞『究極のメニュー』担当記者の2人を中心に、”食”を巡るいろんな世界を描く、1983年から小学館ビッグスピリッツに長期連載されている人気シリーズであるが、本作品『美味しんぼ・タイ米の味』は、「美味しんぼ」シリーズで平成コメ凶作とタイ米騒動を題材とした作品。本作品は、1995年2月に発行されたビッグコミックス第49集に収められているが、初出は「ビッグスピリッツ」1994年第19号から4編連載で掲載された作品。
本作品のストーリーは、山岡士郎と結婚して新居に引っ越してきたばかりのゆうこが、家の中を整理したくて仕事を早退し米が家にないのに気づき近所に米を買いにいくシーンから始まる。国産米不足で、米屋で唯一手に入れることができたタイ米を買い、自分の家庭で山岡士郎と初めてタイ米を食べることになる。近所に米を買いに行ったゆうこは、スーパーの店の人から「何を言ってんですか!今どこに行ったってお米はありませんよ。欲しければ、売り出し時間に来て並ばなければ。特に国産米の売り出しは、量が限られていますから、並んでも手に入らないことはざらです。」と言われ、ショックを受ける。
一方、山岡とゆうこの職場である東西新聞文化部には、東西新聞と長年の提携関係にあるタイの新聞社・タイ日報のタイ人女性記者、サクンタラ・ブレンサップが、女性の目から見た日本の社会についての記事を書くために、しばらく籍を置くことになるが、文化部に来た早々、タイ米についての東西新聞社員たちの数々の無神経で差別的発言が彼女を大変怒らせてしまう。サクンタラ・ブレンサップがタイ日報の社長の娘であるだけでなく、タイでは有名なジャーナリストで、しかも彼女の家がタイの政財界に大きな影響力を持ってたことから、東西新聞社の大原社主や局長は、文化部メンバーに対し激高するいが、ここで、山岡士郎が、「まあ、まあ、おてやわらかに。」と言って、「日本人全体が、タイ米に対して偏見と無理解のかたまりになっている、やはりそれは、どう考えても間違っている。俺は自分自身に対する反省もこめて、タイ米の名誉を回復してやりたいのです。そうすることで、日本人がタイ米の真価に気づいて、タイ米を美味しく食べられるようにもなる。」とこのピンチ状況を一旦救う。
そして、東西テレビで企画を進めていた、山岡夫婦が住む新居の大家・尾沢平助と結婚した料理屋「はる」を開いている尾沢はるを主役にした料理番組「究極の食文化番組 はるさんの台所」の第1回テーマに、タイ米を取り上げ、タイ米の美味しさを日本人に紹介しようとするが、番組収録中に、この番組が米の輸入を促進する内容のものであるとして番組の制作阻止に米輸入反対運動家たちがなだれ込み、米の輸入や日本の農業問題そのものもからんでくることになり、また一波乱起きてしまう。この厄介な状況をどう山岡たちがクリアするかが読みどころの一つでもあるが、本当にタイ米が日本人の口に合わないかどうかがいろいろと試され、加えてタイ米の伝統的な炊き方も紹介され、タイ米に対する先入観・誤解も改められるはずだ。
本作品の中でも、日本人のタイ米に対する先入観・誤解や数々の差別的な発言が、取り上げられているが、実際、1993年(平成5年)、空前の冷夏で作況指数「74」という戦後最悪の凶作で日本中で米不足が発生し、タイをはじめ海外から米を緊急輸入し、輸入米の販売が本格化した1994年3月頃には、日本でもコメ不足騒動やタイ米の不人気とタイ側の反発などの問題が起こり、当時の状況が本作品によく描かれている。
作品冒頭でも、東西新聞文化部メンバーが、「臭いしバサバサしてるし、まずくて食えたもんじゃないよ。」「だいたいタイ米って、安全じゃないんでしょう?お米の中に異物が入っていたってニュースを、テレビで見たわ。そんなの不潔だわ。」「(タイ米を美味しく食べさせること)は無理だよ。もともと質が悪いんだから、どうしたってダメだ。でんぶんの質だって、日本の米とは違うそうじゃないか?そんな米を持ってくる政府が悪いのよ。」などと、タイ米について次々に語り、同席していたタイ人女性サクンタラ・ブレンサップを完全に怒らせてしまった極めつけの発言は、富井副部長の次のような発言だった。「まったくねえ、この時代になってまさかタイ米なんか食べさせられるような災難にあうとは、思わなかったよなあ。君たちのような若い連中にはわからないだろうが、僕らの世代は戦後の食糧難を経験してるからね。タイ米についての記憶は切実だよ。あのころは”外米”と言っていたが、タイ米と同じことなんだよな。細長くて、色が悪くて、いやな匂いがして、ばっさばさで・・・ま、とにかく、そのまずいことといったらね、ほんとに情けなかったなあ。」「去年の凶作で米がないのはわかるけど、タイ米を輸入するなんて政府もどうかしてるよ。まずくて食えないものを輸入して、どうするってんだ?家畜の餌ならともかく、あんなまずいものを人間に食えなんて、無理な注文ってもんだよ。」
ビッグスピリッツコミックス 『美味しんぼ 第49集・タイ米の味』 目次
■第1話 タイ米の味<1>,<2>,<3>,<4>
■第2話 われても末に
■第3話 タケノコ山作戦<前編>,<中編>,<後編>
■第4話 お弁当同盟<前編>,<後編>
■「美味しんぼ タイ米の味」
本作品の主な登場人物
・山岡士郎
・ゆうこ
・「はる」のおかみ
・スーパーの店の人
・米店の人
・サクンタラ・ブレンサップ(タイの新聞「タイ日報」の女性記者)
・相川料理長(東西新聞社 社員食堂料理長)
・富井副部長(東西新聞社文化部)
・東西文化部社員たち
・大原社主
・局長
・文化部部長
・尾沢平助(山岡の新居の大家)
・倉井局長(東西テレビ編成局)
・辻田(東西テレビプロデューサー)
・田和祐太郎(「はるさんの台所」番組司会)
・夕野マリ(「はるさんの台所」番組司会)
・多田広助(「米輸入阻止同盟」決死隊隊長)
・島川栄一(「米輸入阻止同盟」決死隊副隊長)本作品のストーリー展開時代
・1994年春
本作品のストーリー展開場所
・東京