メコン圏が登場するコミック 第19回「メコンの鷹」(著者:望月三起也)


「メコンの鷹」 (著者:望月三起也、発行:SUN COMICS <朝日ソノラマ>、1983年2月発行》

本作品の著者である漫画家・望月三起也(1938~2016)は、神奈川県横浜生まれで、漫画家でアニメ制作会社タツノコプロ創業者でもある吉田竜夫氏のアシスタントを経て、1960年、少年クラブ増刊号にて『特ダネを追え』でデビュー。1964年 少年キングにて『秘密探偵JA』を連載し、大ヒットとなりその後数多くの作品を少年誌に発表。なかでも、1969年から週刊少年キングで11年連載となった、法で裁けない悪党を処刑するために組織された「超法規的警察集団」を描いた作品『ワイルド7』は代表作となり、テレビドラマ、アニメ、映画化なども行われた。死没後の2016年5月、「独特のコマ割りと格好良さでアクション漫画界に多大な影響を与えた功績」で、第45回日本漫画家協会賞の特別賞を受賞。

作品「メコンの鷹」は、「ワイルド7 」の長期連載が終了した1979年の発表された読切の短編漫画で、初出は秋田書店の1979年12月13日号『プレイコミック』に掲載。その後、同名タイトルの単行本が、「メコンの鷹」以外に、他に、発表時期がそれぞれ異なる3作品とともに、朝日ソノラマのサンコミックスに収録されて、1983年2月に発行された。この単行本「メコンの鷹」に収録された他の3作品とは、初出は1965年 秋田書店のまんが王・別冊まんが王に発表の「探偵ロク」、初出は1971年 少年画報社のヤングコミックに発表の「猫は地獄で笑う」、初出は1972年 少年画報社のヤングコミックに発表の「砂漠の狐」。

「メコンの鷹」のストーリーは、ある夜、東京都区内の閉店後の小さなクリーニング屋に数人の男たちが押し入り、1人でいた店主の男・幸太を縛り上げて店内で暴力を振るい、店内の客から預かった衣類をメチャクチャにして損害を与えて立ち去るシーンから始まる。そこに、銭湯に出かけていた幸太の妻・お糸が帰宅し、警察に連絡しようとするが、幸太はそれを制止する。それで、妻のお糸は、幸太の弟・藤二郎の関係者が来たことを察する。ヤクザ同士の争いのトバッチリを受け、弟の身代わりに、夫の幸太が、ひどい目にあわされたことが我慢できない。

幸太の弟・藤二郎は、高級外車を乗り回し大別荘を持つ身分で、赤坂で、東京のムーランルージュかリドかと評判をとる大きなキャバレー「青場所」を成功させ、六本木に2軒目を計画中で、兄の為にも、藤二郎は、キャバレーの支配人を兄の幸太に任せたいと考えている。小さい時、両親に死に別れ、幸太が父親代わりになって小さい弟の面倒を見てきたということから兄弟愛が非常に強く、幸太も弟の藤二郎に心配させたくないという気持ちから、弟のトラブルでヤクザたちに暴力を受け脅されたということを弟に知られたくなかった。

弟の藤二郎の争いの相手は、地獄花グループという完全なギャング。夜の東京完全支配をたくらみ、これまでも流行っているクラブ、キャバレーと次々に脅しで安く買いたたき、藤二郎にも目を付けたが、金銭で片が付かず、脅しをかけようとするも、藤二郎の周りにはいつも護衛がつき、藤二郎もカンは良く冷静で、全くスキがなく攻めようがなかったが、藤二郎の弱点は、小さなクリーニング店を営む堅気の兄であることをつきとめる。

ストーリーの冒頭に登場する、小さなクリーニング店に押し入り、店主の幸太に暴力を振るい、脅しをかけた男たちは、この地獄花グループというギャングのボスに雇われているチンピラたちで、ギャングのボスとチンピラたちとの会話から、このチンピラたちのグループが、かつて『メコンの鷹』と呼ばれていたグループということがストーリーの途中で分る。「メコンの鷹」というタイトル名から、アクション凄くカッコよく鋭い人物が、「メコンの鷹」と異名を持つ本作品の主人公かと思いきや、ギャングのボスに雇われている、どうしようもないチンピラ連中が、作品タイトルの「メコンの鷹」?ということで、一旦、驚くことになるが、ストーリーの終盤に、ベトナムと関わった「メコンの鷹」にまつわる驚きの過去が明らかになる。

ストーリーの序盤で、クリーニング店主・幸太が、チンピラたちに一方的に暴力を振るわれるも、忍耐強く抵抗せずにいるものの、鍛えられた肉体と鋭い眼光が気になるが、”若い時….血と….火薬のニオイをかぎすぎたんでな……そういう世界にゃ二度ともどりたくねぇ”と、幸太が、妻のお糸に語るシーンも、序盤に残している。本書の表紙カバーには、セクシーな女性が描かれているものの、本作品には全く登場してこない。ただ、関連ワードとしては、「CAR 15」(Colt Automatic Rifle-15)は登場する。終盤のアクションシーンは、非常に見ごたえある描写だが、小さなクリーニング店主の幸太が渋くてカッコよいし、また幸太と藤二郎の兄弟の関係も感動的だ。

■「メコンの鷹」主な登場人物
・幸太(都内の小さな祈クリーニング屋店主)
・お糸(幸太の妻)

・藤二郎(幸太の弟で、赤坂に大きなキャバレーを経営)
・地獄花の社長(ガンマニア)
・地獄花の社長に雇われたチンピラたち(軍曹・石松他計5名のグループ)
・藤二郎経営のキャバレーのボーイ長
・幸太・お糸夫婦の近所の人達(トコ屋・酒屋)
・幸太・お糸夫婦の近所の人達(魚屋・魚八のハッツァンと女房)
・GIA スーパーヘルスジムのガードマン
・地獄花の社長のクリスマスパーティに呼ばれた情婦たち

■「メコンの鷹」収録作品
メコンの鷹
猫は地獄で笑う
砂漠の狐
探偵ロク/ 石頭の決闘

関連記事

おすすめ記事

  1. 雲南省・西双版納 タイ・ルー族のナーガ(龍)の”色と形” ①(岡崎信雄さん)

    論考:雲南省・西双版納 タイ・ルー族のナーガ(龍)の”色と形” ①(岡崎信雄さん) 中国雲南省西双…
  2. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第19回「貴州旅情」中国貴州少数民族を訪ねて(宮城の団十郎 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第19回「貴州旅情」中国貴州少数民族を訪ねて(宮城の団十郎 著)…
  3. メコン圏に関する中国語書籍 第4回「腾冲史话」(谢 本书 著,云南人民出版社)

    メコン圏に関する中国語書籍 第4回「腾冲史话」(谢 本书 著,云南人民出版社 ) 云南名城史话…
  4. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第24回 「激動の河・メコン」(NHK取材班 著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第24回 「激動の河・メコン」(NHK取材班 著) …
  5. メコン圏現地作家による文学 第11回「メナムの残照」(トムヤンティ 著、西野 順治郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第11回「メナムの残照」(トムヤンティ 著、西野 順治郎 訳) 「…
  6. メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者: 西浦キオ)

    メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者:西浦キオ) 「リトル・ロー…
  7. 調査探求記「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」①(伊藤悟)

    「ひょうたん笛の”古調”を追い求めて」①(伊藤悟)第1章 雲南を離れてどれくらいたったか。…
  8. メコン圏を舞台とする小説 第41回「インドラネット」(桐野夏生 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第41回「インドラネット」(桐野夏生 著) 「インドラネット」(桐野…
  9. メコン圏対象の調査研究書 第26回「クメールの彫像」(J・ボワルエ著、石澤良昭・中島節子 訳)

    メコン圏対象の調査研究書 第26回「クメールの彫像」(J・ボワルエ著、石澤良昭・中島節子 訳) …
  10. メコン圏を描く海外翻訳小説 第15回「アップ・カントリー 兵士の帰還」(上・下)(ネルソン・デミル 著、白石 朗 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第15回「アップ・カントリー 兵士の帰還」(ネルソン・デミル 著、白石 …
ページ上部へ戻る