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メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者: 西浦キオ)
- 2023/7/20
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メコン圏が登場するコミック 第17回「リトル・ロータス」(著者:西浦キオ)
「リトル・ロータス」 著者:西浦キオ 紙コミック(LINEコミックス全6巻)発行:LINE Digital Frontier、第1巻は2018年9月発行、最終巻の第6巻は2021年4月発行》
本書は、ベトナム人の両親をもち、日本で生まれ育った新人女性マンガ家による、ホーチミンを主たる舞台として、日本人青年とベトナム人少女の二人の主人公を中心に展開される物語。2017年12月より「LINEマンガ」オリジナル作品として連載がスタートし、紙コミックも2018年9月からLINEコミックスとして刊行が始まり、全6巻の最終巻の発行は2021年4月。子供の頃から絵を描くこと、漫画を読むことが大好きで、高校1年生の頃から本格的に漫画を描き始めたという著者の10代でのデビュー作品。ベトナムの中でもホーチミン市を舞台にしたのは、著者の祖父母の家がホーチミン市にあり、著者自身も幼い頃から何度も訪れているからとのこと。
本書のストーリーは、大学卒業と、「前田フーズ」という食品加工の会社の就職を1か月後に控えた大学生の桜井俊介が、ベトナム・ホーチミンに自分の従姉妹がいると、骨折で入院中の祖父・桜井俊信を見舞いに行った時に祖父から家族誰もが知らない話を初めて聞かされ、15歳のベトナム人少女グウェン・チ・センと会うためにホーチミンへと旅立つところから始まる。祖父が若い独身の頃、仕事の関係でベトナムに行き、現地のベトナム女性と恋に落ちるも、当時のベトナムは戦後の混乱期で彼女を置いて帰国せねばならなかった。そのベトナム女性は娘を身ごもっていて、その娘も結婚して1人娘もいて、祖父の現地の娘夫婦はリトル・ロータスというカフェを営んでいたが、祖父の孫にあたる一人娘を残しバイクの事故で亡くなってしまう。
現地で祖父の孫ということで従姉妹にあたるベトナム人少女センと出会った俊介は、少しずつ心を通わせながら、彼女のことを理解していく。天涯孤独となったセンを助けるため、俊介は自分に何ができるかを考え、やがて彼は、日本の会社の就職内定を蹴ってホーチミンにとどまり、センと一緒にセンの両親が経営していた料理店「リトル・ローズ」を再開することに……。そしてストーリーの展開期間は、ベトナム人少女センが中学卒業年から高校時代を経て進学までの3年強の期間と、4年が経ち大学卒業後の時点となっている。主人公の日本人青年が料理好きでベトナム料理店をホーチミンで開店するという話なだけに、多種多様の美味しそうなベトナム料理がたくさん登場するが、ベトナム料理の美味しさだけでない、ベトナムのいろんな魅力があふれるくらいに伝わってくる作品。
とにかく、主人公の日本人青年とベトナム人少女の二人が、とてもさわやかで優しく好感が持て、二人の関係がどう発展するのかも、大いに気になるところでもあるが、恋の話だけでなく、二人の主人公や周りの人たちそれぞれの人生、進路、決断の問題についてもしっかり描かれている。主人公の日本人青年の桜井俊介は、非常に優しいうえに、決断力や行動力もあり、更に料理が得意という際立った長所があるが、異性とのことを始め、いろいろと鈍感なところがあり、それが、また微笑ましい。もう一人の主人公のベトナム人少女の方は、とにかく明るく可愛く、性格がまたとても優しいが、二人の織り成すストーリーは、ユーモアたっぷりの心温まるものとなっている。二人の主人公たちを取り巻く、ベトナムのいろんな登場人物たちも個性豊かで、それぞれ存在感を放っている。尚、ベトナム少女の主人公の名前センだが、ピンクの蓮はベトナムの国花で、蓮はベトナム語で”セン Sen”(英語でロータス)
主人公の日本人青年は、何より、特技が料理で、包丁を始めて触ったのは1歳で2歳からは母の手伝いもしていて、小中の家庭科調理実習ではメインで女子力高く、バイトは和・洋・中すべての厨房を経験済みという青年だ。主人公のベトナム人少女グウェン・チ・センの幼馴染で親友でもあるクラスメートのトゥーとハオというベトナム人少女たちもユニーク。トゥーは一流ホテルのオーナーの令嬢で、小さい頃から習い事はたくさんしているけれど、一番好きなのはベトナムの総合武術ボビナム。一方のハオは、好きなことは放課後にカフェに行ったり洋服を見たりすることで最近はテレビでやっている中国ドラマもよく見ていて、優しくて女の子らしくて一緒にいると癒されるタイプ。
ベトナムの社会や文化についても、日本との違いにも触れながら、読者が関心をもって理解できるように、随所に分かりやすく紹介されている。ホーチミンとハノイの味付けの違い、10月20日の「ベトナム女性の日」、タクシー配車アプリ、宝くじと売り子、義務教育、デート事情、映画館、アオザイ、グエンフエ通り、バス事情、クリスマス、早朝の公園、ダーカウ(ベトナムの足バトミントン)、テト(旧正月)、ベトナムの永住権、お年玉、化粧と化粧品、ベトナムのバレンタインデー、Zalo(ベトナムで最も使われているモバイルメッセージアプリ)、ストリートチルドレンとその戸籍登録などと、そのテーマは幅広い。「カオヨー」という、俊介が風邪を引いた時に、風油精(ヤウヨーサン)を塗って金属製のへらやスプーンで背中を赤くなるまでこすり、背中のツボを刺激することで血行を良くする方法の紹介もあった。
ストーリーの展開場所は、ホーチミンがメインとなっているが、ダナンとホイアンも旅行場所として登場。ダナンでは、2014年にオープンした園内に高さ115mある日本の滋賀県のびわこタワーから移設された観覧車サン・ホイールが有名な遊園地「サン・ワールド・ダナン・ワンダーズ・アジアパーク」も紹介されている。他にベトナム中部では、ダナン市街地に近いミーケビーチ、ホイアンのランタン祭りのシーンが描かれている。普段の生活場所としてのホーチミン市内では、スイティエン公園やダムセン公園というホーチミンで有名な遊園地も登場。他に興味深かったのは、ベトナム女子高生3人がダナン旅行先でパジャマで恋バナの場面で、求める男性の要件に3T(Tinh 愛、Tài 才能、Tiền お金)を挙げていたこと。
本書は、各巻の巻末に、それぞれ、番外編として、ストーリーの中のあるシーンを、違った角度、視点から再現して読者に見せてくれたり、また各巻の表紙カバーを取った本の表表紙、裏表紙に、それぞれ登場人物ごとの独白のようなコーナーも用意されたりと、何度でも楽しめる仕掛けが揃っている。極めつけは、最終巻の番外編「それから」で、二人の主人公と、主だった登場人物たちの数年後の姿が描かれ、とても優しく幸せですっきりした気分になれる。
第1巻の最初の方で、ベトナムの教会の神父が、主人公の日本人青年に、「馬に乗って花をみる」cưỡi ngựa xem hoa というベトナムのことわざを述べているが、”花の美しさを知るには馬の上にいては分からない。馬から降りて花の目線に立たなければなりません。このことわざは、先入観で物事をわかったようなつもりになることを戒めたもので、何事もその物事と同じ立場に立って同じ目線で考えるのが大切だということ”として、主人公の桜井俊介がホーチミンに居残るという最初の大きな決断をすることになっている。
ベトナム料理については、詳細なレシピ説明もつけられているが、ストーリー展開の中で、ベトナムの代表的な料理からあまり知られていない料理、一般家庭料理、地方料理、食材、デザートなどと、その紹介の量や詳細さには驚く。以下の様なベトナム料理関連の説明が美味しい絵とともに作品全編二溢れている。
フォー、チェー、市場、バインミー、ブン・チャー、バイン・セオ、コム・ガー、バイン・フラン、ガーリック・アリス、空心菜の炒めもの、魚介のスープ、ケム・ボー、バイン・クォン、フォー・ボー、コム・タム、ヌック・ミア、ホビロン、サソリ、タガメ、ココナッツワームのヌクマム漬け、ライム塩こしょう、チャオ(ベトナム粥)、バップ・サオ、クレソンと叩きエビのスープ、ベトナムのカレー、ベトナムのビール、バイン・コット、フーティウ、バン・チャン・ヌン、ブン・チャー・カー、ミー・クアン、ムオイ・オト・トム、ドラゴンフルーツ、ザボン、マンゴスチン、ホイアンの三大名物のカオラウ、揚げワンタン、ホワイトローズ、バイン・イッ・ラー・ガイ、ラウ・タップ・カム、バイン・カイン・クア、カイン・チュア、バイン・チュン、チュオイ・ヌォン、鶏肉のレモングラス炒め。ハマグリのレモングラス蒸し、ソイ・ガー、水牛肉の空心菜炒め、サテトム、チャー・ジョー(揚げ春巻き)、バイン・クォン(蒸し春巻き)、ゴイ・クォン(生春巻き)、ブン・リュウなど。
■主たるストーリー展開場所
・ホーチミン、ダナン、ホイアン、日本(東京、特定地域の、明記はないが首都圏)
■主たる登場人物
・桜井俊介(物語の最初は、卒業と就職を間近に控えた日本人の大学生)
・グウェン・チ・セン(物語の最初は、ホーチミンの15歳の中学生の少女)
・桜井俊信(桜井俊介の祖父)
・トゥー(グウェン・チ・センの学友の女性)
・ハオ(グウェン・チ・センの学友の女性、両親はハノイ出身)
・タオ(ベトナムで一番人気の女優)
・女優タオの男性マネージャー
・ホーチミンの教会の神父
・バン(バイクタクシー運転手のベトナム人青年)
・ミー(バンの恋人)
・ユイ(ストリートチルドレンの少年)
・桜井雅義(桜井俊介の兄)
・百瀬明美(桜井雅義の婚約者)
・桜井静子(桜井俊介の祖母)
・桜井俊介の両親
・桜井京子(桜井俊信の次男の妻)
・桜井京子の男女の子供
・染谷百合(桜井俊介の父親の妹)
・ドゥックおじさん(食材の仕入れ先)
・フイとリエン(センの高校クラスメートで恋人同士)
・タイン(フイの友達で日本に関心があるベトナム人男子学生)
・クォン(バンの18歳の従兄弟)
・ベトナム人男性警官
・グウェン・チ・センの中学時代のクラスメートたち
・ホーチミンの日本国総領事館の窓口の女性
・前田フーズの総務担当社員
・ベトナムの男性映画監督
・リトル・ロータスへの日本人女性観光客二人組のお客
■「リトル・ロータス」第1巻 《発行:LINE Digital Frontier、2018年9月発行》
第1話 「ベトナムの少女」
第2話 「求めなさい」
第3話 「馬に乗って花を見る」
第4話 「ハンバーグとプロボーズ」
第5話 「ピンクの蓮」
第6話 「あの頃みたいに」
第7話 「フォーの違和感」
第8話 「夜のホーチミン」
番外編 「デリケートなお年頃」
■「リトル・ロータス」第2巻 《発行:LINE Digital Frontier、2019年3月発行》
第9話 「放蕩娘の帰還」
第10話 「ブン・チャーの味」
第11話 「バイン・セオパーティー」
第12話 「感謝のバイン・フラン」
第13話 「センの料理」
第14話 「バイン・クォン作り」
第15話 「ベトナムの裏メニュー」
第16話 「ベトナム女性の日」
第17話 「俊介の恋人」
第18話 「風邪には〇〇」
番外編 「オープン前日」
■「リトル・ロータス」第3巻 《発行:LINE Digital Frontier、2019年9月発行》
第19話 「少年とバップ・サオ」
第20話 「あったかスープ」
第21話 「はじめてのおてづだい」
第22話 「ボクの居場所」
第23話 「家族とカレー」
第24話 「ベトナムの飲み会」
第25話 「デートとフーティウ」
第26話 「アオザイショッピング」
第27話 「グエンフエ通りの夜」
第28話 「いざダナンへ!」
番外編 「とある一日」
■「リトル・ロータス」第4巻 《発行:LINE Digital Frontier、2020年6月発行》
第29話 「サンワールド」
第30話 「ビーチとフルーツ」
第31話 「ホワイトローズ」
第32話 「ランタン祭り」
第33話 「旅の終わり」
第34話 「聖夜のラウ・タップ・カム」
第35話 「早朝散歩とダーカウ」
第36話 「カウントダウン」
第37話 「スイティエン公園」
第38話 「リトルロータス」
番外編 「パジャマで恋バナ」
■「リトル・ロータス」第5巻 《発行:LINE Digital Frontier、2020年10月発行》
第39話 「アプローチ」
第40話 「メイクアップ」
第41話 「バレンタインデー」
第42話 「日本に」
第43話 「ユイのこれから」
第44話 「フォーマルパーティー」
第45話 「憧れの国」
第46話 「ダムセン公園」
第47話 「ベトナム土産」
第48話 「日本とホーチミン」
第49話 「祖父との邂逅」
番外編 「続・ダムセン公園」
■「リトル・ロータス」第6巻 《発行:LINE Digital Frontier、2021年4月発行》
第50話 「おばあちゃん」
第51話 「結婚式」
第52話 「東京観光」
第53話 「バイト募集」
第54話 「近くにいるから」
第55話 「それぞれの長所」
第56話 「自分のために」
第57話 「進路」
第58話 「未来を見据えて」
第59話 「告白」
第60話 「再会」
番外編 「それから」