「CAMBO.DEAR (親愛なるカンボジア)」(youmeさん)第5回「 カンボジア女性の新しい姿」Sayon – Silkworks –

「CAMBO.DEAR (親愛なるカンボジア)」(youmeさん)第5回 「カンボジア女性の新しい姿」Sayon – Silkworks –

かつてプノンペンで暮らしていたときには178番通り沿いでアパートを借りて住んでいた。それから短期で訪問する時も、勝手知ったる界隈だからとこの通りに定宿がある。この通りには、芸術大学や博物館に近い事から地元の人々が営むギャラリーが軒を連ねていて、外国人旅行者や地方から来た地元旅行者が立ち寄ってアンコールワットの絵画や木彫りのアプサラ等を買っていく姿もよく見られる。

プノンペンではここ数年の間に欧米で見かける様な洒落た店が沢山オープンした。特にこの178番通りには行く度に新しい店がオープンしている。レストランやブティック、ギャラリーと地元の人にはちょっと縁がない雰囲気の建て構えで、値段も立派なので「あそこは高いよ」と地元の人も中に入りたがらない。店のオーナーは欧米人だったり、子どもの頃にカンボジアを離れて海外から帰国したカンボジア人だったりする。

今年(2002年)の夏、プノンペンを訪問した時に一村一品キャンペーンのイベントが博物館前の広場で開催されていた。各地からの特産品を紹介しているブースから離れた所で、洒落た商品を並べていたので見てみる事にした。

写真上: 店の奥の工房で作業中のサヨンさん

流暢な英語で話しかけて来た若い女性が今回ご紹介するサヨンさん。店の売り子さんだろうと思っていたら、彼女がオーナーだと言う。それでびっくりしたのだが、年齢を聞いて更にびっくり。まだ21歳だと言う。

店が178番通りにあるのだと聞き、数日後に改めて訪ねて話しを聞いた。6歳の時にプレイベンの親元を離れ、プノンペンの知人の家で世話になりながら、勉強を続け、学校が終了してからはプノンペンの有名なブティックで2年程務め退職。友人たちから資金を調達して今年2月、店のオープンに踏みきったと言う。

彼女の作り出すカンボジアシルクの商品は、よくある民芸調のものではなくて洗練されたデザインのものが多い。欧米人と働いた時の経験と独特の発想と従来の伝統だけに囚われない柔軟性がうまく絡み合っていて、マクラカバー、キルティング、ランプシェード、クッションから小物までを制作して販売している。店の奥に工房があって、田舎から来た家族と一緒に日々商品を手作りしている。

「たまたま私が英語が話せるからオーナーと言ってますけど、気持ちの中ではみな同じです。店は2月にオープンして、最初は家賃も払えずに大変でした。彼らにはまだお給料が出せませんが、家族ですから助け合っていけるんです」とサヨンさん。

この若さでビジネスを始めるのは欧米各国や日本でだって容易ではないし、彼女の姿は、今後のカンボジアの女性や私たちにも刺激になる。彼女の事を書こうと思っていた矢先、そんな彼女にとって「結婚とは何なんだろうか?」と思い浮かび、7月にプノンペンで会って以来だったがメールで尋ねてみる事にした。

「あなたが、この質問をするのはとても奇遇ですね。と言うのも私はこの9月15日に結婚していたからです。彼はアメリカ人で式は私の田舎で挙げました。結婚というのは先進国からすると、妙なものの様ですね。だけれども、カンボジアでは地方だったら17歳。都市部だったら20歳で結婚するのが昔からの習慣です。家族はこの結婚を認めてくれませんでしたが、今彼らの面倒を見ているのは私ですから、彼らはあまり多くは言えない様です。この結婚は家族に新しい文化を持たらしましたし、結婚してからは前以上に安心感があります。結婚と言うのは人を永久に愛すると感じた時の唯一の結論でしかありませんでした」と丁寧な返信が届いた。

私は彼女からこの返信をもらってちょっと安心した。働き者で時に強く優しいカンボジア女性の新しい姿。伝統を守りつつも囚われず、新しい文化を取り入れるのは作り出す作品だけではなく、自身の生活においてもそうだった様だ。

(C)youme. 2002 All rights reserved.

*SAYON – silkworks-
 #40 St.178, opposite Wat Sarawan Phnom Penh, Cambodia
Phone: 855-16-853-303  e-mail: sayon_silk@rediffmail.com

写真下:ショップ内:カンボジアシルク、タイシルク、チャイニーズシルクを使った商品を制作販売している。カスタムメイドも可。商品は3ドル(小物)~

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