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メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第2回「タイ美術展」(東京国立博物館 朝日新聞社 編集)
- 2004/7/10
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メコン圏関連の図録・報告書・資料文献 第2回「タイ美術展」(東京国立博物館 朝日新聞社 編集)
日タイ修好100周年記念「タイ美術展」図録(東京国立博物館 朝日新聞社 編集、発行:朝日新聞社、1987年)
本書は、日・タイ修好100周年記念行事の一環として、1987年8月から1988年2月にかけて、東京国立博物館、大阪市立美術館、名古屋市博物館で開催された『タイ美術展』の共通目録。バンコク国立博物館をはじめタイの主な博物館から出品されている全作品(146件)の図版はすべてカラーで、多くの作品が頁大のサイズの写真で紹介されている。本書の内容は、出陳された全作品のカラー図版がメインであるが、これ以外に、全作品の各個解説、タイ美術文献(抄)、タイ美術地図、タイ美術年表、タイ所在の寺院壁画図版、全作品の英文目録からなっている。(図版掲載146点の詳細はこちら)
作品にはすべて作品解説が付されているが、タイ国立博物館学芸員を中心とした研究者の執筆した原稿をもとに編集されたもので、解説は個別作品だけでなく、バンカオ、バンチェン、ベンチャロン陶器、ライナムトン陶磁、ニエロ製品、螺鈿といった特定テーマについての解説も付け加えられている。作品の掲載順序としては先史時代の考古資料、彫刻、絵画、金工、陶磁器、漆器の順に並べらべられているが、出陳される全作品中、彫刻が圧倒的に多く(No.39~No.104)、表紙の彫刻の図版は、「菩薩頭部」(No.67)。ちなみにこの作品についての解説は以下の通り。
菩薩頭部 1箇
ナコンラチャシマ県ノンスン区バンタノー発見 ロッブリー期、8~9世紀
青銅 高70.0cm バンコク国立博物館(バンコク)
この像の髪型をジャタームクタといい、毛髪を束ねて輪にし、互いにからませ複雑な形に組み上げたものである。宝髻の正面にある筈の化仏が欠失しているので、尊名は比定できない。顔はやや面長で、鼻筋は通り、眉は「く」の字形で、唇は肉厚でめくれている。上唇に沿って口ひげがある。眼は大きく見開くが、伏目で、瞳には貴石か青貝のような材料を嵌めていたとみられる。顔はおだやかで、晴れやかな表情を浮かべている。耳朶下部は欠けている。これは1961年、ピマイへの道筋から程遠からぬナコンラチャシマ県ノンスン区バンタノーにあるストゥーパの遺構から頭部と両手足先のみ発見された。頭部はフランスのナンシー考古学研究所の修理室で修復された。前賻3箇が出たところから四臂像であったとみられる。下肢については、右脚と左足部(長さ48cm)が見つかった。像の主要部の破片は少ないものの、この四臂像がわずかに身をかがめる立像であったことはたしかである。本像の尊名が何であれ、四臂で短い着衣を腰に簡単な紐でしばり、同様な冠をいただくブリラム県出土の一群の青銅像と関連していることは間違いない。それらの像は顔つきが若々しく、口ひげを生やすものもあるが、大部分は弥勒像と考えられる。ブリラム県やコラート県と8-9世紀のアンコール以前の美術の間には、共通の表現形式があったとみなされる根拠である。
個別の作品解説以外にも、”タイ国歴史学の父”といわれるダムロン親王の令息で、王立シャム協会会長・タイ国立芸術大学元学長のM・C・スパッタラディト・ディスクン氏による「タイ美術展紹介」や、東京国立博物館学芸部東洋課インド南東アジア室長杉山二郎氏による「タイ仏教美術管見」の解説文章も掲載されていて、タイ美術についての理解を深めることができる。
先史時代のものとしては、タイ西部のバンカオおよび北東部のバンチェンから出土した土器・青銅器など38件(No.1~No.38)。タイの有史時代の最初は、モン(Mon)族の国ドヴァーラヴァティー王国(7世紀~11世紀)で、23件が出品されている(N0.39~No.60、No.106)。タイ中央部のドヴァーラヴァティー美術の分派ともいうべきタイ北部のハリプンチャイ美術も、チェンマイ国立博物館、ハリプンチャイ国立博物館所蔵作品が数点出品された。
タイ南部で、8~13世紀に栄えたシュリーヴィジャヤ美術では、大部分の人が大乗仏教の信者だったので、観音菩薩像が盛んに作られており、最もすぐれた作の一つといわれる観音菩薩立像(No.63)も含まれている。カンボジアのクメールの影響を示すロッブリー美術からは、上述のタイ東北部出土の弥勒像と思われる菩薩(No.67)をはじめ、ロッブリー期の青銅彫刻の傑作作品が鑑賞できる。彫刻だけでなくクメールの陶磁器も出品されており、多くは褐釉が施されており、そのほとんどがタイ東北部から出土したものだ(No.125~No.127)。
ところがこれまで述べてきた作品は、現在のタイ領土で見られる美術ということでその担い手はタイ人ではなく、タイ人によるタイ美術ということになると、それは、北部タイのランナー期の美術、中部タイのスコータイ美術、ウートン美術、アユタヤ美術、バンコク美術となる。13世紀中期から15世紀中期までにわたるスコータイ美術は、タイの美術表現の最高の時代と見られている。陶磁器は全部で18作品(No.125~No.142)が出展されたが、スコータイ時代に盛んに作られたサワンカロークの陶磁器も含まれている。
本書の内容構成
ごあいさつ
東京国立博物館/大阪市立美術館/名古屋市博物館/ 国際交流基金/日本放送協会/朝日新聞社
メッセージ
タイ国外務大臣 Siddhi Savetsila
外務大臣 倉成 正
駐日タイ王国特命全権大使 Wichian Watanakun
タイ芸術局長 Taveesak Senanarong図版(全146件)
先史時代、彫刻、絵画、金工、陶磁器、漆器「タイ美術展」紹介 M.C.スパッタラディト・ディスクン
タイ仏教美術管見 -観照のためにー 杉山二郎
作品解説
タイ美術文献(抄)
全作品の英文目録
タイ美術年表
タイ美術地図
タイ寺院壁画
◆日タイ修好100周年記念
・1987年8月25日(火)~10月4日(日)東京国立博物館
・1987年11月20日(金)~12月20日(日) 大阪市立美術館
・1988年1月9日(土)~2月14日(日) 名古屋市博物館
主催/東京国立博物館、大阪市立美術館、名古屋市博物館、国際交流基金、日本放送協会、朝日新聞社
後援/外務省、文化庁、タイ芸術局、タイ大使館、トヨタ財団
協力 タイ国際航空
協賛 野村證券、出光興産
・ごあいさつ(本図録掲載文章全文引用)
日本とタイが修好通商宣言に調印して、今年で100周年を迎えます。これを記念し、両国国民の友好親善を一層深める文化交流の一環として、タイ美術の長い歴史をたどる展覧会を開催いたします。
タイには上座部仏教の影響を受けた仏教美術の逸品が数多く残されています。タイ美術の長い伝統と多彩な展開を物語る、これらの文化遺産を日本で体系的に紹介するのは、主催者一同の大きな喜びです。本展出品の155点は、バンコク国立博物館をはじめとするタイ国内の主要博物館から選ばれました。7,8世紀から近世に至るまでの、変化に富んだ造形を示す仏教彫刻を中心に、精巧な技術を駆使した金銀器や漆器、また日本で宋胡録として古くから珍重されてきた陶磁器、さらに考古学的に興味深いバンチェン遺跡の出土品なども加えています。この機会に、少しでも多くのかたがたにタイ美術の真髄を感じとっていただければ幸いです。
最後に、本展が日・タイ両国の親善と友好の進展に寄与しうることを期待するとともに、本展開催にあたり、貴重な作品をご出品下さったバンコク国立博物館をはじめとするタイ国内の博物館、ならびにご協力いただいた関係各位に心からお礼を申し上げます。
東京国立博物館、大阪市立美術館、名古屋市博物館、国際交流基金、日本放送協会、朝日新聞社