メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第7回「パーフェクト・タイムービー・ガイド」

メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第7回「パーフェクト・タイムービー・ガイド」


「パーフェクト・タイムービー・ガイド」Perfect Thai Movie Guide、2003年5月発行、アジンコート出版 http://www.p-movie.com

ついにここまできたかと思えるようなタイ映画ファン待望のマニアックな本が登場した。非常に情報が多く深い上に最新情報を網羅した本で、執筆者も右記のようにつわものぞろいで、紹介されているタイ映画のみならず、本書出版にあたった編集者・ライターの人たちの溢れるパワーが感じられる本だ。イントロでは、「タイムービーの魅力!」として、タイ映画を熱く語ろうと呼びかけている。出版界では売れないとされる映画の本で、しかもハリウッドの話題作などではなくてタイの映画のことだけしか紹介せず、映画スターといっても、世界的なトップスターではなく、おそらくタイ人でなければ知らない俳優しか出てこないものだ。編集後記では、そう認めた上で、遠く離れた日本でこのような本が生まれることになったのも、今タイ映画はニューウェーブといわれる若手監督が、パワー溢れる映画をどんどん作っており、彼らのパワーに共鳴したからとも書かれている。

 第7回東京国際映画祭・京都大会の「京都国際映画祭」(1994年)アジア秀作映画部門で上映された『ムアンとラット』が、1995年に日本で一般公開され、その後2000年末から翌2001年には、『6ixtynin9』、『デッド・アウェイ バンコク大捜査線』、『アタック・ナンバーハーフ』、『ナンナーク』、『少年義勇兵』と、続々とタイ映画が日本で一般公開された。特に実在の話を元にしたニューハーフたちの強いバレーボールチームを題材とした『アタック・ナンバーハーフ』は日本でもロングランとなった。2002年に入っても『レイン』、『タイムリセット 運命からの逃走』、『怪盗ブラック★タイガー』とタイ映画の日本一般公開が続いている。まずパート1では、日本で一般公開されたこれら9本のタイ映画作品の紹介だ。カラー写真も豊富で、キャストなどのデータが揃い、ストーリー解説がついており、見どころ紹介にもタイ映画通のライターならではのマニアックな情報が盛り込まれている。

 タイ映画作品の詳細なデータ・紹介については、これまでに日本で一般公開された作品だけでなく、もうすぐ日本で公開予定の作品(本書の取材編集時点)や、日本で開催された映画祭で上映されたタイ映画作品についても、同じように用意されている。もちろん、現在(2003年6月)日本で上映が始まったばかりの『ジャンダラ』についても書かれている。物語の舞台は1918年のバンコクから始まるというこの約40年前にタイで大いに物議を醸した雑誌の連載小説の映画化には、一部ラオスロケも含まれていたことも本書で知った。この映画のノンスィー監督はタイの有名女優を多数口説いたが、作品のあまりの過激さゆえに引き受ける勇気のある女優がいなくて、香港だけでなく世界的に活躍中のクリスティ・チョンに依頼したそうだ。この1970年生まれの主演女優のインタビューも付いている。今年(2003年)日本公開予定とされる浅野忠信主演の映画『Last Life in the Universe』も本書紹介を読むと、公開が待ち遠しく楽しみだ。「6ixtynin9」「わすれな歌」を手がけたペンエーグ・ラッタナルアーン監督の次回作で、バンコクに住んでいる日本人が主人公だ。

 本書の読み応えという点では、豊富で詳細なタイ映画作品の紹介記事も楽しいが、タイ新進映像作家たちへの直撃インタビュー記事ではなかろうか。これら新進作家たちの経歴にも新しさを感じるが、映画作品についてのエピソードからタイ映画産業などのついての受け答えから個々の監督への関心も強まってくる。タイ公開が1999年で日本でも2002年初に一般公開された「レイン」を共同監督した1965年11月香港生まれの双子・パン兄弟(オキサイド・パンとダニー・パン)のインタビューでは、タイに渡ったきっかけや、「ナンナーク」の監督でタイ映画界を代表するノンスィー・ニミブット監督の話にも触れられている。2002年「あり得た可能性」で東南アジア文学賞を受賞した作家ながら、ファッションや言動、甘いマスクなども手伝って雑誌のカバーや広告のモデルにも起用されるなど、タイの若者たちにとって知的なカリスマとして人気が高いプラープダー・ユン氏(1973年生まれ)のインタビュー記事もある。プラープダー・ユン氏は上述の『Last Life in the Universe』で脚本家としてもデビューしている。

 ”知っ得!タイ情報”と題した7編のコラムもバラエティに富んだ内容だ。タイのアカデミー賞とも呼ばれるスラサワディー賞の近年の受賞状況(第22回の1998年度~第26回の2002年度)や、1999~2001年間のタイ映画の興行収入ランキング上位10作品、更にはタイでのタイ映画グッズのゲット場所という役立つ情報もある。本書では、たくさんのタイ映画作品が紹介されているが、パート5、パート6では、更にタイだけで公開されてきたタイ映画作品やタイでの最新話題作品も数多く紹介されていて、タイ映画の広さ、深さを感じ取ることができるはずだ。

本書の目次

Introduction 今こそ、タイ映画を熱く語ろう!
PART 1. 君は観たか、日本公開作品BEST 9本!
・1995年公開 『ムアンとリット』
・2000年公開 『6ixtynin9 シックスティナイン』
 ・2001年公開 『デッド・アウェイ バンコク大捜査線』『アタック・ナンバーハーフ』 『ナンナーク』 『少年義勇兵』
・2002年公開  『レイン』『タイムリセット 運命からの逃走』『怪盗ブラック★タイガー』
・interview 『怪盗ブラック★タイガー』主演女優 ステラ・マールギー
・未公開リリース作品『アリゲーター 愛と復讐のワニ人間』2001年ビデオリリース

PART 2. 話題作満載! もうすぐ日本で公開予定(?)作品7本!
・2003年公開予定
『わすれな歌』出演女優シリヤゴーン・プッカウェート記者会見
『ジャンダラ』出演女優クリスティ・チョン インタビュー
『the eye 【アイ】』『バリスティック』『IRON LADIES2: THE EARLY YEARS』『Last Life in the Universe (原題)』脚本担当プラープダー・ユン インタビュー
・2004年公開予定
『THREE』東京国際映画祭 第15回記念大会 アジアの風 ピーター・チャン監督 インタビュー

PART 3. 6人のタイ新進映像作家 直撃インタビュー
『アタック・ナンバーハーフ』ヨンユット・トンコントーン監督
『ナンナーク』ノンスィー・ニミブット監督
『レイン』オキサイド&ダニー・パン監督
『怪盗ブラック★タイガー』 ウィシット・サーサナティヤン監督
『わすれな歌』ペンエーグ・ラッタナルアーン監督

PART 4. 見逃した人のための映画祭上映作品8本
『ファン・バー・カラオケ』~アジアフォーカス福岡映画祭’97~
『正義の華』~第12回東京国際映画祭・シネマプリズム~
『絵の裏』~アジアフォーカス福岡映画祭’01~
『ゴール・クラブ』~第14回東京国際映画祭~ギッティゴーン・リアオシリクン監督インタビュー
『ムーンハンター』~アジアフォーカス福岡映画祭’02~
『KILLER TATOO』~第18回東京国際ファンタスティック映画祭2002~
『ギリギリの二人』~第3回東京フィルメックス 新・作家主義国際映画祭~ ダニー・パン監督インタビュー
 『ブリスフリー・ユアーズ』 ~第3回東京フィルメックス 新・作家主義国際映画祭

PART 5. 早く日本で観たい! タイ公開作品21本!
1995年作品 『メナムの残照』 
1997年作品 『2499 DANG BIRELEY’S AND YOUNG GANGSTERS』『RED BIKE STORY』   1998年作品 『CRIME KINGS』 『KLONG』 『O-negative』 『FAH』
1999年作品  『THE WALL』『CLONING』『Daek 4』
2000年作品  『Ung-Yee』 『SATANG』 『GO-SIX』 『BANG RAJAN』
2001年作品  『Nguu Keng gong』『MAE BIA』『WHERE IS TONG?』『SURIYOTHAI』 『KWAN RIAM』『Body Jumper』『BANGKOK HAUNED』

PART 6 もっと気の早い人のために、超最新話題作18本!
2002年~2003年公開予定作品
『Mon Plaeng Look Tung FM』『The HOTEL!』『NOR CHOR』『BORN BLOOD』『14 GIRL’S FRIENDS』『KUNPAN」『7PRAJANBAN』『The TREK』『TIGRESS OF KING RIVER』『Butterfly in Gray』 『Mekhong Full Moon Party』 『Headless Hero』『Good Man Town』 『Saving Private Tootsie』 『I’m Lady』『BANGKOK SPOOKHOUSE』 『One Night Husband』『Beautiful Boxer』

PART 7. タイ映画? 撮影現場特別リポート!
バンコク郊外 『THE TESSERACT』 撮影現場に侵入

preview  編集後記・ライター紹介
コラム  知っ得! タイ情報
1.タイに着いたら、まずは映画館に行こう!
2.タイで、日本の映画が人気?
3.タイのアカデミー賞は美男美女がいっぱい!
4.タイ映画の歴代興行ランキングは?
5.日本にいても分かる、タイ映画紹介サイト!
6.タイ映画グッズ 丸秘スポット紹介!
7.潜入!2003年バンコク国際映画祭

執筆者紹介(本書執筆者紹介より:発行当時) 

ムビオ
パーフェクト・ムービー・ガイド管理人:映像ディレクター、放送作家を生業にしながらも、映画好きが嵩じて6年前に映画紹介サイトの草分け「パーフェクト・ムービー・ガイド」の発起人となる。タイ映画に魅せられて3年、タイ映画に専念するためにも、そろそろムビオを2代目に譲ろうかと考えている。

木香圭介 (もっこう けいすけ)
シネマ・ナビゲーター:大学生の頃からタイにはまり、年末年始は毎年パタヤで過ごす。ケーブルTVやコミュニティーFMとフリーペーパー”オフィスぱど”にて映画紹介者として活躍中。

高杉美和 (たかすぎ みわ)
タイ語通訳・翻訳者:大学卒業後バンコクの日系企業で5年間OL生活をおくる。当時白田麻子のペンネームでバンコク週報にタイ芸能レポートを執筆。大学時代の恩師、宇戸清治先生の講義で見て以来タイ映画歴13年目、通算約120本。

地畑寧子 (ちばた やすこ)
零細出版社、編プロ、ビデオ雑誌社・・・と出版界の裏街道を歩いて、編集&ライターに。専門は香港を中心にした中国語圏及びアジア映画。不定期発行の映画誌フィルム・ゴアの発行人。

野口友莉 (のぐち ゆり)
在パリ映画ライター。98年に渡仏。パリを拠点にフランス映画や国際映画祭などの取材活動を行う。共同著書に若手フランス人監督を集めた「ヌーヴェル・ヴァーク新世代」がある。

本書収録のコラム「知っ得!タイ情報 5」
日本にいても分かる、タイ映画紹介サイト! で紹介
『Siam2You』今現在タイで何を上映しているか知りたい方は(ただしタイ語)
『タイ映画』その名も「タイ映画」がお勧め
『SF CINEMA CITY』これからのタイ公開作品のラインナップを知りたい方は(ただしタイ語)
『ORIENTAL BREEZE』この本では紹介していないタイ映画の日本語字幕付きビデオの販売は
『パーフェクト・ムービー・ガイド』このサイト内の「タイ旅行映画日誌」

本書で使っている表記について
本書に収録された作品データは2002年11月末現在、(一部の原稿は2003年2月までの情報を掲載)編集部が各映画会社への問い合わせや、タイの映画資料を参考に編集したもの。映画のタイトル名に関しては日本公開されたものには邦題を、タイのみでの公開のものには原題を英字またはカタカナで記している。また俳優や監督、スタッフの名前は、タイ語に近い表記をカタカナで記している。さらに本文中で紹介している日本で公開されていない作品及び映画祭のみで公開された作品のタイトルは、タイでの原題または映画会社が仮に決めている仮称で表記している。公開日やリリース日は、現在予定のものを掲載。尚、修正部分や追加部分は、随時「パーフェクト・ムービー・ガイド」ホームページで連絡。

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