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メコン圏を描く海外翻訳小説 第6回「SAS/クワイ河の黄金」(ジェラール・ド・ヴィリエ 著、小野萬吉 訳)
- 2003/7/10
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メコン圏を描く海外翻訳小説 第6回「SAS/クワイ河の黄金」(ジェラール・ド・ヴィリエ 著、小野萬吉 訳)
プリンス・マルコ・シリーズ「SAS/クワイ河の黄金」(ジェラール・ド・ヴィリエ 著、小野萬吉 訳、東京創元社(創元推理文庫)、1980年3月《原作は1968年》
<著者>ジェラール・ド・ヴィリエ GERARD DE VILLIERS
<訳者紹介>小野 萬吉
1945年和歌山県に生まれる。1967年京都大学文学部仏文科卒業。訳書: ヴィリエ「SAS/ブルンジ スパイ衛星墜落」「SAS/怒りのベルファスト」(本書訳者紹介より、本書発刊当時)
本書は、創元推理文庫から”プリンス・マルコ・シリーズ”として、多数の日本語版が刊行されているジェラーリ・ド・ヴィリエのハード・ボイルド作品の一つ。主人公のプリンス・マルコ・リンゲ殿下(SAS)は、オーストリア貴族で、ウィーン近くのリーツェンに、オーストリアとハンガリー国境にまたがる由緒正しい城の所有者でありながら、アメリカ中央情報局(CIA)作戦部のエイジェントだ。
本書は、1967年3月26日、マレーシアの高原、カメロン・ハイランドで起ったタイ・シルク王のアメリカ人富豪、ジェイムズ・H・W・トンプソンの失踪を題材とした小説で、本書翻訳版は1980年の刊行であるが、原作「クワイ河の黄金」は、ジェイムズ・H・W・トンプソンの失踪が起った翌年の1968年に発表されている。ちなみに本書では、元OSSエイジェントでタイ絹商人を、ジム・スタンフォードとし、また彼の失踪場所はマレーシアの高原、カメロン・ハイランドではなく、タイ西部のカンチャナブリという設定になっている。
この小説では、プリンス・マルコが、CIA作戦部部長ディヴィッド・ワイズから、マルコの旧友でありバンコク在住のジム・スタンフォードが、タイ西部カンチャナブリのクワイ河鉄橋附近で、車が乗り捨てられ忽然と姿を消し、失踪2日後にはロス郊外在住のジム・スタンフォードの妹が惨殺されたことを告げられる。そしてジムを生きたまま見つけ出して欲しいとの任務をうけ、コペンハーゲン、タシケント(当時、ソ連邦ウズベク共和国)を経由するニューヨーク=バンコク直行便というスカンジナビア航空の新路線で、バンコクに飛ぶ。
ジム・スタンフォードは、かつてはOSS(第2次大戦中フランスで活躍した米軍特務機関)の花形で、波乱万丈の経歴を持つCIAの草分け的存在で、3年もの間、ビルマ、タイ、マレーシアの未開のジャングルで日本軍に対する諜報活動を展開。彼の情報は連合軍の何千という人命を救ったが、戦争が終っても合衆国には戻らず、タイ女性と結婚し、バンコクでタイ・シルクの商いをはじめ、タイ随一の絹商人となっていた。突然の失踪は、果たしてタイ軍、華僑の連中、中国国民党の連中或いは共産主義者たち、それとも商売敵の仕業による殺害あるいは金銭目当ての誘拐なのか?
プリンス・マルコは、CIAバンコク支局長のタイ人女性秘書テビン・ラジブリとともに、旧友の足取りを追い始めるが、カンチャナブリのクワイ河附近の共同墓地の墓守の老人の死体を発見。ジム・スタンフォードの行方を探るプリンス・マルコの行く手に、その後も次々と人が殺されていき、プリンス・マルコ自身も殺し屋に命を狙われるなど、何度も危険な場面に遭遇する。この追跡行の展開ももちろんではあるが、タイ生まれながらUCLAを卒業しているタイ有力者の娘というタイ人女性秘書テビン・ラジブリが、なかなか魅力的で、その上なにやら謎めいていて、マルコとの関係がどう展開するのか、また彼女の行動の真意ははたして如何なるものか、ということも大変気になるところだ。
本書のタイトルには、「クワイ河の・・」とあり、ストーリーの冒頭とラストシーンは、タイ西部カンチャナブリが舞台となっているが、ストーリー展開の大半は、1960年後半と思われるバンコクの町で、有名観光スポットを含めバンコク市街の各所が追跡の行き先となっており、バンコクの町を知っている人にとっては余計に楽しめるのではないか。また初めてタイを訪れ知ることになったプリンス・マルコを通して、西洋人のタイや東洋に対する感じ方の一端がうかがえる。
尚、ジェイムズ・H・W・トンプソンの失踪事件を題材とした小説で、日本で最も知られているのは、松本清張氏の本格長編推理小説『熱い絹』(単行本は1985年刊行)であろうが、この『熱い絹』の文庫版(講談社文庫、1988年)の解説を、ウィリアム・ウォレン著の翻訳版『失踪ーマレー山中に消えたタイ・シルク王』(第三書館)の訳者・吉川勇一氏が、書いている。この吉川氏の解説では、「・・・本書(『熱い絹』)以外にも、この事件(ジェイムズ・H・W・トンプソンの失踪)を題材にした小説はある。ジェラード・ド・ヴィリエのプリンス・マルコ・シリーズの『SAS/クワイ河の黄金』がそれだが、これは例によって荒唐無稽といってもいい反共活劇もので、『熱い絹』と同列に論じるわけにはいかないだろう。日本人の手になるものでは、同じく講談社から出されている中村敦夫『チェンマイの首』(1983年)もトンプソンの謎をとりあげている。・・・)と、本書のことが書かれている
関連テーマ
●ジム・トンプソンの失踪(1967年3月26日)
●泰緬鉄道とクワイ河
●タイの共産ゲリラ活動ストーリー展開時代
・1967年 と推定(明記はなし)*ジム・スタンフォード、25年もアジアに暮らしていると・・・マレーシア連邦(1963年)成立後ストーリー展開場所
・カンチャナブリ ・バンコク、トンブリ ・クアラルンプール
主な登場人物たち
・マリコ・リンゲ(CIA特務諜報員、通称殿下(SAS)
・ジム・スタンフォード(タイ絹商人、元OSSエイジェント)
・ディヴィッド・ワイズ(CIA作戦部部長)
・ウォルター・ホワイト大佐(CIAバンコク支局長)
・シリマ・スタンフォード(ジム・スタンフォード夫人)
・テピン・ラジブリ (ホワイト大佐のタイ人秘書)
・ポン・プンナク中尉(タイ国家警察)
・アカサル大佐(タイ国家警察)
・カセサン大尉(タイ国家警察)
・パトポン大尉(タイ国家警察)
・ジョイス中尉(ホワイト大佐の部下)
・サマイ(タイ人の殺し屋)
・シリキット(タカラ・オンセンのマッサ-ジ嬢で、ナイトクラブ《ザ・スリーキングダムズ》のホステス)
・キム・ラン(中国人歌手)
・ポイ(ヴィーナス・バーの女店主)
・ジム・スタンフォードの妹(ロス郊外のパシフィック・パリザードで一人暮らし)
・カリン(スカンジナビア航空の一等キャビン付きのホステス)
・ナルマネ(エラワン・ホテルのホステス)
・パオ(シリマ・スタンフォードに仕える女性の召使)
・スリウォン通りにあるジム・スタンフォードの店で働くニュージーランド娘
・エラワン・ホテルのドア・ボーイ
・チェン・マイ(ヴィーナス・バーのホステス)
・ヴィーナス・バーのバーテン
・チェン・ポ・チュー(チャイナタウンのストリッパー)
・ミス・ペチ・ウドーン(バンコクのニューロード電話交換手)
・カンチャナブリの墓守の老人
・カンチャナブリの中国人の食料品店兼食堂経営の家族
・ファーストホテルのフロント係