北東インド旅行記 ~「辺境」の地を訪ねて~ 第7回 ナガランド編(7)(中園琢也さん)

北東インド旅行記 ~「辺境」の地を訪ねて~ (中園琢也さん)
第7回 ナガランド編(7)

中園琢也:
都内在住の一般企業勤務。学生時代よりアジア各地を旅行。旅先での関心領域は食文化を中心とした生活文化全般、ポップカルチャー、釣りなど。

1.はじめに
(1)北東インド7姉妹州(セブンシスターズ)
(2)旅程

2.ナガランド州
(1)基礎情報
(2)ナガランド州と周辺地域の地図情報
(3)ナガランド州概要 ①ナガの人々 ②言語 
③宗教 ④歴史 ⑤文化 ⑥食 ⑦産業 ⑧観光業 ⑨自然環境 ⑩その他
(4)ナガランドの玄関口 ディマプル
(5)コヒマへの移動
(6)コヒマの宿
(7)戦跡 ①インパール作戦 ②コヒマの戦い
(8)コヒマの地形 ~階段と坂道だらけの街~
(9)キリスト教

(10)市場
(11)コヒマでの外食事情と食文化
(12)犬肉食と文化的アイデンティティ
(13)飲酒事情
(14)ナガの若者文化

(12)犬肉食と文化的アイデンティティ
ナガの伝統文化としてよく知られているものに、「犬肉食」というものがある。犬肉食の文化は、中国や韓国、ベトナム、カンボジアなどアジア各国でも見られる。犬肉は、その食味だけでなく、滋養強壮に富む栄養食とみなされてきた。しかし、近年、動物愛護の観点から、また、狂犬病や衛生管理の観点から、取引禁止の動きが広がっている。今回のナガランドの旅では、犬肉料理を食べるというのも目的のひとつだった。まずは、実食レポートの前に、ナガランドにおける犬肉食の状況とその文化的位置づけについて簡単に触れたい。

2020年7月に、犬の商業輸入と取引、犬市場と犬肉の販売を禁止するとナガランド州政府は通達した。これに違反したものは、刑法と動物虐待防止法に基づき処罰されるとした。

 

州政府の通達後、禁止を非難する犬肉推進派と禁止を祝う反対派に世論は大きく分かれた。犬肉消費を文化的権利、民族的尊厳として語る前者と、動物愛護という倫理的な問題として語る後者とは双方が相容れなかった。また、野良犬など不衛生な犬肉については不潔で病気のリスクもあるため、コロナ禍で衛生意識が高まってきたことも反対派の追い風となった。

その3年後、2023年6月にアッサム州グワハティ高等裁判所は禁止が施行される前に同通達を取り消した。裁判所は犬肉の取引と消費に関する法律が制定されていないまま通達が発令されたことを理由とするとともに、ナガランド州政府に「禁止命令を発令する適切な権限がない」とも述べた。こうして紆余曲折はあったものの、今も変わることなく犬肉は消費されている。

犬肉食は、ナガ族においてもそこまで一般的なものではない。実際に、今回の旅では、市場で犬肉を探し、犬肉料理が食べられる食堂を探し、実際に食べて、何人か現地の人に犬肉食について尋ねてみた。市場ではひっそりと犬肉は売られ、裏路地の一部の庶民的な食堂でのみ提供されていた。何人かに犬肉について尋ねてみたが、好んで食べるという人もいたが少数派のようで、犬肉はやや高価な上に、独特の臭みがあって苦手、わざわざ食べるほどのことはないという人が多いようだった。特に女性や子どもは動物愛護の観点からも食べない人も多いとのこと。ただ、ある男性は、「豚肉が圧倒的にポピュラーで、あとは同程度。犬肉は牛肉や鶏肉、羊肉と並んでその他大勢の食肉の一つ」とも言っていたので、珍味扱いされるほどマイナーというわけでもないようだった。滋養強壮に富む精力剤的な用途で特に成人男性に食されるようだった。

しかし、さほど一般的ではないにもかかわらず、犬肉食の伝統は、ナガの人々に対する偏見や暴力、人種差別を扇動するツールとなっている。犬肉食を通してナガを野蛮なものであるとみなし、道徳的に劣っているという差別の根拠とするというものである。一方で、犬肉食の禁止は、マイノリティーの文化的アイデンティティの抑圧、ナガ弾圧の歴史と結びつけてみなされる動きもあった。

ところで、インド政府によるナガ弾圧の象徴に「国軍特別権限法(AFSPA: Armed Forces Special Powers Act)」という法律がある。「騒乱地域」と指定された地域では、インド国軍の士官が、治安維持上必要と判断した場合、裁判所の許可を得ずとも疑わしい人物に対する家宅捜索や尋問はおろか、射殺さえも許されており、その結果について一切罪に問われることはないというものである。この法律は、北東部4州(ナガランド、マニプール、アッサム、アルナーチャル・プラデーシュ)の31地区とジャンムー・カシミール州で現在も適用され、12地区では部分的に適用されている。1958年以来、現在に至るまで65年にわたって、ナガの居住地で効力をもち続けている。独立運動に対する「治安維持」という名目で、数多くの村々は焼かれ、その犠牲者は20万人以上とも言われている。

この悪名高い国軍特別権限法と犬肉食禁止を結び付けることで、「犬は守るが、ナガの人々は守らない」という政治的メッセージだとみなして、反政府・独立運動に繋がりかねない動きもあった。

こうした背景も踏まえた上で、犬肉料理を食することも、ナガランド旅行の目的の一つであった。しかし、自力で街中を探し回っても、犬肉料理を提供する店を見つけられなかった。やむを得ず、オーナー妹氏に犬肉料理を食べられるお店を尋ねたところ、親切にも地図に書いて教えてもらい、なんとか行くことができた。店は幹線道路沿いにはなく、庶民的なエリアの裏道(ニューマーケットロードの北端、幹線道路に合流する直前あたり)に三軒並んであった。一カ所に集中してお店があるのは何らかの事情があるからかと思われた。

薄暗い店に入り、席に着いたもののメニューはなく、豚肉か犬肉か牛肉のどれかを伝えると定食になって出てくるとのこと。犬肉のセットの値段は200ルピー(約360円)だった。料理は犬肉の煮込、インド定番のダル(豆スープ)、アチャールらしき辛い野菜の漬物、瓜とタケノコを煮たもの、生野菜のマリネみたいなもの(生ものは衛生面で心配なので手をつけず)。犬肉の煮込みは、いつもの煮込みと同じく唐辛子が効いた激辛料理で、たまたまなのか下処理が優れていたからなのか聞いていたほど癖がなく(今までナガランドで食べた豚肉の方がよほど獣臭い)、やや硬め、骨の周りのスジ肉みたいな食感だった。豚肉だと言われたら気がつかないくらい特に違和感もなく、拍子抜けするほどであった。ただ、好奇心から珍味を食べたいというのを除くと、あえてリピートしたいというほどのものではなかった。

<参考文献>

  1. 現地英字雑誌FRONT LINE記事「ナガランド州の犬肉禁止政策」2020年7月14日。Dolly Kikon, “The politics of dog meat ban in Nagaland”, FRONT LINE, Jul 14, 2020
    https://frontline.thehindu.com/the-nation/the-politics-of-dog-meat-ban-in-nagaland/article32082833.ece (アクセス日2024年2月20日)
  2. 現地英字紙The Hindu記事「グワハティ高等裁判所、ナガランド州政府の犬肉禁止令を取り消す」2023年6月6日。THE HINDU BUREAU “Gauhati High Court quashes Nagaland government’s ban on dog meat” The Hindu, June 06, 2023
    https://www.thehindu.com/news/national/other-states/gauhati-high-court-quashes-nagaland-governments-ban-on-dog-meat/article66937215.ece(アクセス日2024年2月20日)
  3. 廣瀬華子「犬を食べるのは残虐なのか? インドのナガ族「犬肉はごちそうだ!」」ganas、2017年5月12日。https://www.ganas.or.jp/20170512nagaland/ (アクセス日2024年2月20日)
  4. Wikipedia(英語版)“Armed Forces (Special Powers) Act”https://en.wikipedia.org/wiki/Armed_Forces_(Special_Powers)_Act(アクセス日2024年2月20日
  5. NIKKEI Asia(英字紙)「新型コロナウイルスでアジアが疫病警戒する中で、カンボジアで犬肉消費が冷え込む。シェムリアップ、中国、インドでの禁止措置により、より健康的、より人道的な未来への期待が高まる」2020年10月27日。SANDY ONG“Cambodia cools on dog meat as COVID puts Asia on disease alert Bans in Siem Reap, China and India raise hopes for healthier, more humane future” NIKKEI Asia, 27 Oct 2020 https://asia.nikkei.com/Spotlight/Asia-Insight/Cambodia-cools-on-dog-meat-as-COVID-puts-Asia-on-disease-alert?n_cid=DSBNNAR (アクセス日2024年2月20日)

<閲覧注意!>以下、犬肉の写真が掲載されます!

 写真:マオ・マーケットの犬肉売り場の案内。地下にひっそりとその売り場はあった。

 写真:階段を降りてすぐ、倉庫のような扉の奥には数匹の犬の鳴き声がした。

 写真:後ろを振り返ると捌いたままの犬肉が売られていた。インドで見かける野良犬は痩せっぽちで可食部が少なく見え、コストに見合わないのではと思っていたが、食肉用に養殖しているのか、実際に見てみると結構肉付きが良かった。

 写真:捌いたばかりなのか、内臓なども奥の方にそのまま残されている。

写真:宿のオーナー妹氏に犬肉料理が食べられる食堂を教えてもらい、やっとたどり着くことができた。お店は、庶民的なエリアの裏道(ニューマーケットロードの北端、幹線道路に合流する直前あたり)に三軒並んであった。看板には豚肉、牛肉と並んで犬肉の文字が。

写真:オーナー妹氏にお勧めされた「KEVI RESUTAURANT」に入店。

 写真:店内の風景。薄暗い。若い女性の一人客もいた。

写真:メニューはなく、豚肉か犬肉か牛肉のどれかを伝えると定食になって出てくる。犬肉のセットの値段はRs200(約360円)だった。料理は犬肉の辛い煮込、インド定番のダル(豆スープ)、アチャールらしき辛い野菜の漬物、瓜とタケノコを煮たもの、生野菜のマリネみたいなもの(生ものは衛生面で心配なので手をつけず)。

 写真:犬肉の煮込。たまたまなのか下処理が優れていたからなのか全く癖がなく(今までナガランドで食べた豚肉の方がよほど獣臭い)、やや硬め、骨の周りのスジ肉みたいな食感だった。豚肉だと言われたら気がつかないくらい特に変な癖は感じず、拍子抜けするほどであった。

 写真:インド定番のダル(豆スープ)

 写真:アチャールらしき辛い野菜の漬物

 写真:細切りのタケノコを茹でたもの

 写真:茹でた瓜

 写真:トマトや玉ねぎ、レモン、ハーブなどを和えたマリネみたいなもの。生ものは衛生面で心配なので手をつけなかった。

(13)飲酒事情
ナガランド州は、1989年に州議会が取り決めた酒類禁止法により、州内での酒類の販売と消費が禁止された。ただし、その規制は緩く、現在、他州から持ち込まれた闇市場での取引は活況を呈しており、アルコール類は州内でも入手可能と言われている。ただし、外国人旅行者である私が日中街中を歩き回る程度では、闇販売のアルコールを目にすることはなかった。

 一方で、村落の一般家庭では自家消費を目的に米を原料とする自家醸造(どぶろく)の酒がつくられている。こうした自家消費目的の分については特に規制もなく、クリスマスや結婚式などお祝い事やお祭り、親戚などのプライベートな集まりで振舞われていたり、近所相手に商売している庶民的な居酒屋みたいな店でひっそり飲まれていたりするらしい。また、ツアーの観光客が訪れるような村では、観光客相手に提供する所もあるとのこと。

 酒造方法としては主に米粉を練ってカビを生やした米麹を用いた醸造酒、稻籾(たねもみ)のモヤシからつくる稲芽酒=ライスビール(発泡したどぶろく、名称「ズトー」)の二つががある。後者は大麦を使ったビールづくりに似ており、世界の他の地域ではほとんど見られないユニークなものらしい。

 私はどうしてもズトーを飲んでみたいと思い、ナガランド訪問の楽しみの一つとしていた。そして、毎晩、ズトーが飲める店がないか、停電で真っ暗闇の中、裏路地を探しまわったが見つからなかった。法律でアルコールは禁止されているため、人に聞いて回るのもなんだと思い最初は自力で探そうとしたが諦め、売店のおばさんや談笑しているおじさんなど何人かに「ズトーはどこで飲めるか?」と尋ね回ったが分からず。暗くて細い路地にある、扉が胸から上の高さで中が見えない、怪しくいかがわしい様子の家屋に柄悪めな男3人が連れ立って入っていくのを見かけ、続いて入ろうかと一瞬迷ったが、違う種類のいかがわしい店の可能性があるので止めておいた。

 やむをえず、宿のオーナー妹氏に「ズトーを飲むことはナガランドに来た目的の一つ」「どんなに探しても見つからない」「このまま帰れば一生後悔する」「販売目的ではなく自家消費目的で製造していると聞くが、なんとか飲むことはできないか?」と連日顔を合わせる度に話題に出してアピールしたところ、不憫に思ったのか各方面に手を尽くして手配してくださり、コヒマ滞在最終日に行くことができた。

 妹氏が知人のタクシー運転手に事情を話して、どこかズトーを入手できる所に連れて行ってくれないかと相談したところ、その運転手の方が学生時代の友人の伝手を辿って女友達で実家が飲み屋をやっている人に頼んでくれた。場所はコヒマ市近郊のコヒマ村にあるとのこと。

 ちなみに、このコヒマ村とは、コヒマ市の外に隣接している住宅地エリアを指す。コヒマ都市圏(グレーター・コヒマ)の北東部を構成する部分で、アジア最大の村落とも言われ「Bara Basti(バラ・バスティ、大きな村)」とも呼ばれている。グレーター・コヒマは、コヒマ市、コヒマ村、ジョトソマにあるコヒマ科学大学地区を合わせたエリア。9万3千人の人口を抱え、ディマプル都市圏に次いでナガランド第二位の都市圏である。

 コヒマ市中央に位置する宿から、タクシーで20~30分ほど、コヒマ村の住宅地エリアの中にある、近所の仲間内で飲んでいる居酒屋というか飲み会みたいな集まりに参加させてもらうことができた。

 このお店で提供される自家製酒は2種類。ひとつは、目的の酒ズトー(zutho:ライスビール)、これは日本の濁り酒やマッコリを2倍の量の炭酸で割ったような感じであった(もちろんこちらは自家発酵の発泡酒)。もうひとつは、トゥース(thuthse:どぶろく)、こちらは日本と比べて若干薄めな濁り酒。どちらもアルコール度数は3%程度だと感じた。

 当初は、試飲をさせてもらい、気に入ったら欲しい分だけ空いたペットボトルに詰めてもらって購入し、すぐに退散するつもりであったのだが、既に出来上がった常連おじさん達にまあ座って飲めやと誘われて、盃を重ね何杯も飲まされることとなった(1.5リットルほど!)。結局、2時間ほど一緒に飲むことになったが、楽しいひと時を過ごすことができた。

 酒のつまみの話題の中で、時折戦争の話を振られたりもするのだが、態度を決めかねて反応に困った。突然、「ジェネラルサトーを知っているか!?(佐藤中将:軍に背いて作戦の中断とコヒマからの撤退命令を下した)」と声をかけられ、「もちろん知っているよ!」と答えたものの、相手の様子に非難めいた態度は見られなかったが深追いはしたくなく、自ら他に話題を変えたりした。ナガの人々は日本軍と英国軍それぞれの側についた人がおり、また、日本軍も綱紀正しく尊敬されている部隊もあれば強制徴用や乱暴な振る舞いで恨みを買っている部隊もいたと聞いており、スタンスを決めかねて適当にお茶を濁したり相槌を打ったりしつつ応対したりした。ナガの人々は共通語として英語を話すので、酔っぱらいながらも意外と普通にコミュニケーションをとることができた。他には男同士の飲み会でありがちな下ネタを振られたり、双方の言語の簡単な挨拶や歌を紹介しあったりなど、楽しいひと時を過ごすことができた。

 さて、お会計の時になって、入店時にはおかみさんからグラス1杯分で80ルピー(約144円)と言われていたにもかかわらず、結局、勧められるまま2種類の酒で恐らく2リットルは飲んだため、高額の支払いを覚悟していたが、お持ち帰り分(500mlペットボトル容器)含めて50ルピー(約90円)でいいとのこと。あまりの安さに申し訳ない思いがしたので、コヒマの友人達に奢ってあげたいと伝えたが皆さん固辞されて、結局50ルピーを払ってそのまま帰ることになった。ついでに、私がジョッキとして使用していたひょうたんをくり抜いた容器(ジョッキの代わり)をお土産にもらった。せっかくなので、日本まで持ち帰ったが、臭いが植物臭くて(カビ臭くて)微妙だった。

 また、宿に到着後、連れて行ってくれたタクシーの運転手氏も当初の話では往復行って帰るだけで500ルピー(約900円)と取り決めていたところ、(本人は飲まないにもかかわらず)飲み会に付き合わせてしまい移動含め3~4時間ほど拘束することになってしまったので、お礼に追加で100ルピー(約180円)を支払おうとしたがそちらも固辞された。なお、トゥースを大いに気に入ったため、ペットボトル1本分ほど宿に持ち帰ったのだが、室内でも楽しもうと蓋を開けた途端、破裂音とともに中身が噴出。貴重なお酒を半分ほどぶちまけてしまった。殺菌していない作りたてのお酒だけに、今も発酵し続けていることをすっかり失念していた。

 今回ナガランドでは様々な所を観光したが、最後に一番の思い出を作ることができた。

写真:コヒマ村に到着。道は入り組んだ坂道を上り、自力では辿り着けない。

 写真:幹線道路と主要道路以外は未舗装。坂道だし、雨が降ると大変そうだ。

 写真:ドライバー氏の学生時代同級生だった居酒屋の娘さんが迎えに来てくれた。

 写真:ドライバー氏の同級生だった居酒屋の娘さんが迎えに来てくれた。

 写真:常連客の皆さんと記念撮影。民家の炊事場兼土間兼ダイニングみたいな建物。

 写真:それぞれ思い思いに飲んだり、しゃべったり、ウロウロしたり。

写真:まずは試飲の1杯。おかみさんがわざわざ手渡しでくれた。

 写真:ズトー(ライスビール)は日本の濁り酒やマッコリを2倍の炭酸で割ったような感じで、味が薄かった。アルコール度数は体感で3%くらい。味が薄く、炭酸は弱く、美味しいかといえば微妙だった。一方で、もう1つのお酒「トゥース」は濁り酒という感じでコクがあって美味しかった(とはいえ日本の濁り酒より若干薄め)。

 写真:サービスでもらった酒のつまみ。乾燥した豆。

 写真:ひょうたん製ジョッキ。植物臭いというか、埃っぽい倉庫臭いというか、カビのような臭いもして、酒の味が不味くなった。最初のプラスチックコップが良かったものの、ご厚意を無下にするわけにもいかず、飲めば注がれるこのジョッキでひたすら飲み続けた。

写真:ドライバー氏、酒を飲むわけにはいかず、酔っ払いの相手もしたくないし、一人ぽつんと手持ち無沙汰な様子。なんだか申し訳なかった。

 写真:元同級生の娘さんがやってきて、話し相手ができたドライバー氏、楽しげな様子。

 写真:炊事中のおかみさん。

 写真:みんなで談笑中。

 写真:おかみさんの弟。43歳独身。スマホで東京都心のビル群の空撮動画を見せながら、「東京は凄い!こんな大都会に住んでいるのか?行ってみたいなあ!」と何度も繰り返し羨ましがっていたのが微妙に気まずかった。インスタをお互いフォローして、今も時々やり取りしている。

写真:宿に戻ってすぐ、この写真撮影の直後、大事に持ち帰ったトゥースを飲もうと蓋を開けたら破裂音とともに噴出。半量が一瞬で飛んでしまった。

(14)ナガの若者文化
ナガの人々は、モンゴロイド系で、日本人とよく似た容姿の人をよく見かける。ナガの人々との会話の中でも、「(アーリア系のインド本土の人々と違い)日本人は同じモンゴロイドの仲間だ」と親近感をもって容姿について言われたことが何度かあった。インド本土の人々からは敵対する中国の人々と類似した容姿を「Chinky(中国風、中国人)」と侮蔑されることがよくあるそうなので、その反発からよりいっそう日本人に親近感を持つのかもしれない。あとは、容姿以外に、日本との繋がりを感じることといえば、戦争の歴史、あとは納豆や漬物を多用した食文化くらいのもので、日本とはあまり接点はないものだと思っていた。

 以前、インド(本土)やネパール、スリランカ、パキスタンなど南アジアの国々を旅していて感じたのだが、東南アジアの人々はアニメやアイドル、映画やドラマなどポップカルチャーを通して日本に関心を持つ人が多いが、南アジアの人々は外国のポップカルチャーと言えば完全に欧米を向いていて、日本のポップカルチャーには全く関心がなく、日本に対しても特に親近感などは感じていない印象であった。しかし、ナガランド州やマニプール州で出会った人々は、東南アジア(ミャンマー)と隣接していて文化的にも近く、容姿もモンゴロイドで親近感があるからか、日本のポップカルチャーに関心が高い人が多かった。

 ガイドや運転手など出会った人々と話し込む機会があると、日本のアニメの話題になることが多かった。特に「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」などが人気のようだ。一説によると、ナガランドは、禁酒州のため、バーやクラブで集まって飲酒するといった若者向け娯楽や文化があまりないこともあり、ケーブルテレビや動画配信サービスなどで日本のアニメを視聴する習慣が若者の間に普及したようだ。また、コロナ禍での外出自粛による自宅での引きこもりがその傾向に一層拍車をかけたらしい。

 また、アニメを視聴するだけに留まらず、ナガランドではコスプレ文化も盛んとのこと。コヒマでは、毎年大規模なアニメのコスプレイベントが開催されている。この「ナガランドアニメジャンキーズ・コスフェスト(NAJ Cosfest:Nagaland Anime Junkies Cosfest )」というコスプレイベントは、2013年6月に第1回(参加者数500名)が開催され、以降も、毎年7月に2日間にわたって開催されているとのことだった。

 ちなみに、現在は定着したこのイベントも当初は反キリスト的であるとみなされ難航したらしい。近年、反キリストの悪魔崇拝が10代20代の若者の間で流行し、深刻な社会問題となっているそうだ。特にSNSやロックミュージック(特に過激な歌詞や容姿が多いヘヴィメタルやブラックメタル)の影響により、その勢いは増している。そのためキリスト教徒が多数を占めて多大な影響力をもつナガランド州の教会はこうした悪魔崇拝(サタニズム)を警戒している。

 そして、2013年にナガランド・アニメ・ジャンキーズ(NAJ)が州初のコスプレイベントを企画したとき、彼らは反キリストであるとみなされた。当時、サタニストの若者による墓掘りや教会への襲撃(犠牲となった動物の血で「悪魔」の痕跡を残す)がナガランドの教会を悩ませていた時代で、約500人のコスプレイヤーが顔をペイントして派手な衣装を着ることが、反キリスト的だとみなされていたらしい。しかし、彼らの危機感もすぐさま杞憂に終わったようだ。

 また、それ以前に、日本に対する親近感が高まっており、受け入れる素地となったこともあるようだ。例えば、2002年に日本の宗教指導者のグループがナガランドを訪問してコヒマの戦いにつながった1944年の侵略を謝罪したこと、2009年には日本のミュージシャンがコヒマで演奏したこと、2011年にはナガランド州の人気ロックバンドが日本の地震と津波の犠牲者のために募金イベントを企画したことは、日本に対する親近感を持つきっかけとなった。さらには、日本製のアニメや漫画を通して、日本の文化や生活様式を知ることで、日本に興味を抱くようになったようだ。

 その後、ナガランドの愛好者は進化を遂げ、自作の漫画のコンテンツに自国の伝説的人物や悪役を登場させたり、伝統工芸品にアニメの要素を加味させたりするなど、漫画やアニメといったサブカルチャーが現地に溶け込み始めているとのことだった。

 <参考>

1.Wikipedia “NAJ Cosfest”
https://en.wikipedia.org/wiki/NAJ_Cosfest(2024年2月25日アクセス)

2.Nagaland Anime Junkies公式インスタグラム https://www.instagram.com/nagaland_anime_junkies/ (2024年2月25日アクセス)

3.Nagaland Anime Junkies公式YouTube
https://www.youtube.com/@nagalandanimejunkies4122

4.9th Annual NAJ Cosfest 2023 Aftermovie
https://youtu.be/LzaxulACoS0?si=pMKJVtUMsWiB9w5w

5.Nagaland Anime Junkies Cosfest 2022 – 8th Annual NAJ Cosfest
https://youtu.be/W2lx7rLriPQ?si=iTaJhawkuBh-3q3G

6.現地英字紙The Hindu記事「ナガランド州の日本サブカルチャー。漫画、アニメ、コスプレの熱狂者は地元の伝説の物語を漫画やアニメを使って伝える」2018年6月21日。
RAHUL KARMAKAR “Nagaland’s Japanese subculture. Manga, anime and cosplay fanatics are now localising storylines using native legends” The Hindu, July 21, 2018.  https://www.thehindu.com/society/history-and-culture/nagalands-japanese-subculture/article24481651.ece  (2024年2月29日アクセス)

写真:NAJ公式インスタグラムから。年に1度の大イベントだけあって、どれもハイクオリティ。

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