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メコン圏が登場するコミック 第7回「ゴルゴ13 ミッドナイト・エンジェル」(さいとう・たかを 著)
- 2005/3/10
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メコン圏が登場するコミック 第7回「ゴルゴ13 ミッドナイト・エンジェル」(さいとう・たかを 著)
「ゴルゴ 13 ミッドナイト・エンジェル」(【SPコミックス・シリーズ47「暗黒海流」所収】、著者 さいとう・たかを、1983年1月発行、リイド社)
本作品『ミッドナイト・エンジェル』は、世界をまたにかけて活躍する狙撃のプロフェッショナル、ゴルゴ13(サーティーン)のSPコミックシリーズ第47巻「暗黒海流」に収められている、タイのバンコクを舞台とした1979年12月作品。本作品では、ゴルゴ13の本業たる狙撃の依頼の仕事については、依頼の背景や依頼人についても何ら描かれず、ただバンコクのホテルに滞在していた外国の要人がゴルゴ13に射殺されるシーンだけがほんのわずか登場するだけで、狙撃の依頼の仕事とは全く関係のないタイ人娼婦とゴルゴ13との関わりを主に描くという、数多くのゴルゴ13の作品の中では異色中の異色作品となっている。
本作品のストーリーの書き出しは、”バンコクの夜”と題し、バンコクのホテルロビーで公然とアラブ人男性たちがタイ人女性たちと戯れる中、レセプションの女性から満室といって宿泊を断られた白人男性客が、”このホテルじゃ・・アラブ人だけにサービスをするのかね?・・・?”と不服を言う場面だ。そしてバンコクの夜のシーンが数コマ描かれ、『・・・タイでは今、オイル・ダラーによるにわか景気でわいている・・・。場所によっては、アラブ人街かと見間違うほどで、ナナ地区ではアラビア語の看板が目立つ・・・。中東から押し寄せたアラブ人紳士には”男性天国”のタイは、まさしく”楽園(パラダイス)”である・・・。ここでは、自分たちの国で宗教的タブーとされるものが、酒であれ、女であれ、すべて安い値段で手に入るからだ・・・。』という文章を重ねている。
本作品の中心人物で圧倒的な存在感を占めているのは、タイ人(と思われる)娼婦のマリー。とても無邪気で天真爛漫な女性だ。二人の出会いはホテルのバーで、一人酒を飲んでいたゴルゴ13相手にいろいろと話しかけるが、例によってゴルゴ13は全くの無口。そんなゴルゴ13に対してもひるまず明るく話し続けるセリフは微笑ましい。”あんたってハンサムね!でもさ・・ちょっと陰気な感じだなあ・・それ!その目!女にそんな目つきするもんじゃないわよ!あんた淋しそうでハンサムな人だからさ!そんな目さえしなきゃ、いい線いくと思うよ!きっと女の子にももてるようになるからすねちゃあだめだよ!ね、ね、あたしでよけりゃ相手してあげる!おカネのことなら心配しなくっていいから、さ!”
ホテルの特別室に宿泊しているゴルゴ13の部屋に入ってからの2人のやり取りにもマリーの明るさややさしさなど魅力が溢れていて、ゴルゴ13のやや動揺しているような意外な面が見れるのも楽しい。マリーのひもの男性がロペスという名前で、全くタイ人らしくない様相(タイ人と明記されているわけではないものの)には違和感を感じるものの、随所にバンコクらしい風景の絵がしっかり挿入されているのも嬉しい。「夜の女としてじゃなく会いたい」とマリーがゴルゴ13に昼間デートしようと申し出て約束の場所で待っている昼のマリーもまた愛らしい。バンコクの路線バスに乗るゴルゴ13も不思議な感じがするが、ゴルゴ13が王宮付近からバンコク市内を白昼タイ人女性とデートする姿を想像するのも面白い。
尚、本作品『ミッドナイト・エンジェル』はPART 6までと非常に短い作品であるが、本書のタイトルにもなっている『暗黒海流』という作品は、PART17までとやや長編で、実在の阿波丸事件を題材とした作品だ。2千名余りの乗客乗員と9800トンもの貨物を満載していた1万2千トン級の大型貨客船「阿波丸」(浜田松太郎船長)が、太平洋戦争末期の昭和20年(1945年)4月1日、午後11時、シンガポールから日本に向かう途中の台湾海峡において、米国潜水艦クイーンフィッシュにより撃沈された事件で、2千名余りの乗客乗員は、一人の生存者・下田勘太郎氏を除いて全員死亡している。
この「阿波丸」は、アメリカおよび連合国側の要請によって日本の占領下で捕虜および抑留されている将兵や市民16万5千人(アメリカ軍捕虜と市民約1万5千人、連合国軍捕虜と市民約15万人)のために赤十字の救援物資を運び届けるという特殊な任務を帯びており、連合国側から往復路の航海絶対安全を保証されていた「緑十字船」であったが、本作品では、船名を「阿波丸」から「安房丸」と変更しているものの、その他はかなり実在の事件に沿った形で題材に使用している。ただ阿波丸事件に関しては財宝の話をはじめとする謎も多く、これらの阿波丸事件の謎にからんで、沈没後34年経った1979年にゴルゴ13に阿波丸関連でどのような仕事の依頼があったのか、非常に面白い設定で作品が組み立てられている。
SPコミックシリーズ 『ゴルゴ13シリーズ(47)・暗黒海流』 目次
■「暗黒海流」 <1980年1月作品>
■「ミッドナイト・エンジェル」 <1979年12月作品>
■「メスリーヌの猫」 <1980年5月作品>
■「ミッドナイト・エンジェル」目次
・PART 1 バンコクの夜
・PART 2 マリーとロペス
・PART 3 特別室(スペシャルルーム)の客
・PART 4 娼婦の”本気”
・PART 5 バンコクの朝・・・
・PART 6 太陽は今日も・・・
本書収録作品の主な登場人物
・ゴルゴ 13
・マリー(タイ人娼婦)
・ロペス(マリーのひも)
・マリーのアラブ人客
・白人男性
・ホテルの受付係女性
・タクシー運転手
・タイ警察官
・外国の要人
・ホテルのバースタッフ
■「暗黒海流」目次
・PART 1 緑十字船安房丸
・PART 2 生き残った者
・PART 3 歳月は語らず
・PART 4 何かが動きだした
・PART 5 リストの注意人物
・PART 6 意外な自白
・PART 7 陸幕2部別班
・PART 8 依頼されし者
・PART 9 東京湾の銃声
・PART 10 ”死”だけが残されていた
・PART 11 手配された”G”
・PART 12 某高官の策謀
・PART 13 厳戒木暮邸
・PART 14 対決の二人
・PART 15 黒幕倒れる
・PART 16 病院前の一瞬
・PART 17 安房丸に別れを