メコン圏に関する中国語書籍 第6回「滇中英才 ー云南民族历史人物ー」(沈海梅,王艳萍 编著、云南教育出版社)

メコン圏に関する中国語書籍 第6回「滇中英才 ー云南民族历史人物ー」(沈海梅,王艳萍 编著、云南教育出版社)


「滇中英才 ー云南民族历史人物ー」(沈海梅,王艳萍 编著、云南教育出版社,2000年12月)

本書は、雲南教育出版社による雲南民族文化知識叢書シリーズの一冊で、雲南歴史上の有名人とその業績を紹介していて、下記にあるとおり、政治軍事編で17名、文化教育編で14名、科学技術編で3名と、計34名を取り上げている。多くは、雲南出身の人物だが、それだけに限らず、元朝のフビライ=カンが1253年大理国を滅ぼし征服した雲南の統治を1274年より新設された雲南行省の平章政事として1274年より元朝より任されたサイイド・アジャッル[賽典赤・贍思丁(1211年~1279年)]のような、中央アジアのブハラ(現ウズベキスタン)に生まれ育ったムスリムも、雲南の歴史に深く関わった雲南民族歴史人物として取り上げている。また人物紹介も単に業績紹介だけでなく、生い立ちや幼少の時からのいろんなエピソードも盛り込まれている。

 政治軍事篇での紹介は、史記西南夷列伝にも記載されている『庄蹻王滇』の故事に登場する雲南古代の地方政権たる滇国を建立したとされる戦国末期の楚国人である庄蹻、諸葛孔明の南征「七擒七縦」(七たびとらえ七たびはなす)の故事で知られる雲南の少数民族の首領・孟獲の紹介に始まり、白族・大理湾橋人で抗日戦争時、東北地区で卓越した働きをした軍人の周保中(1902年~1964年)まで、計17名に及ぶ。南詔4代王で六詔を統一して南詔国を創立した皮邏閣(697年~748年)、大理喜瞼(現在の喜州)人で大理国を創立した段思平(893年~944年)と、雲南に興った地方独立王国の創設者はもちろん取り上げられているものの、政治軍事篇17名中、保山出身の回族で清朝に対し反乱を起こし16年に及び大理に独立政権を築いた杜文秀(1823年~1872年)以下、11名は清代以降の歴史人物となっている。

 辛亥革命による清朝崩壊・中華民国の誕生から、共和制と反革命、群雄割拠と軍閥混戦、抗日戦争、国共内戦と1949年の共産党革命による南京政府の崩壊までの中華民国史において、雲南の土地や雲南の歴史人物の影響は大きく、雲南の歴史を語る上で、また大変興味深い激動の時代でもある。この時代に活躍したとして、刀安仁、李根源、蔡鍔、唐継堯、龍雲、盧漢などの人物が紹介されている。タイ族で雲南干崖(現在の徳宏タイ族ジンポー族自治州盈江県)の世襲土司であった刀安仁(1872年~1913年)は、昆明重九起義に先立つ辛亥騰越起義の指導者であったし、李根源(1879年~1965年)、蔡鍔(1882年~1916年)、唐継堯(1883年~1927年)は、昆明重九起義や反袁世凱闘争の第3革命で活躍した。これら刀安仁、李根源、蔡鍔、唐継堯の4人は、いずれも日本に留学しており、1911年10月30日の昆明重九起義で起義軍臨時総司令を務め起義成功後の雲南軍都督にも弱冠29歳で任命され1915年末に興した第3革命の指導者の蔡鍔に至っては、1916年11月に福岡で病死と、日本との関わりも深い人物だ。

 唐継堯は、1913年、袁世凱率いる中央政界に一時入った蔡鍔の後を受け、1927年2月の龍雲などによる政変まで、長年にわたり雲南を統治してきたが、”二六政変”後、雲南内の軍閥勢力間での闘争を経て、1929年8月から1945年10月まで16年間に及び雲南を統治したのが、彝族出身で雲南昭通人の龍雲(1884年~1962年)。1945年、半独立状態の雲南の状況を変えたいとした蒋介石によって一切の軍政大権が剥奪され一旦雲南を追われた龍雲は、共産党による雲南解放後、北京で中央人民政府委員、国防委員会副主席等の要職を務めた。また、盧漢(1895年~1974年)は、龍雲の親戚にあたり同じく彝族出身の雲南昭通人。盧漢は、龍雲が雲南を追われる時、日本の敗戦に伴い在ベトナムの日本軍の投降受入のためにベトナムに行っていたが、雲南に戻り雲南省主席に任じられた。1949年12月には昆明起義を挙行し雲南解放を導いた。雲南解放後の1950年以降は、雲南軍政委員会主席、全国人大常務委員会員、政協委員などの職に就いている。雲南解放後、雲南省人民政府副主席を務め、少数民族政策や水利事業に精を出した張冲(1900年~1980年)も、彝族出身だ。

文化教育篇で最初に取り上げられているのは、音韻、医学、文学、哲学等の多方面にすぐれ多くの著作を残した明代の蘭茂(1397年~1470年)。『韻略易通』等の音韻学の著作では、明代の言語状況や現代漢語言語系統の形成と発展の研究に有用なだけでなく、明代雲南方言の言葉も記載されていて、雲南方言の研究にとって貴重な史料となっている。また、日本でも影響があったとされる1436年刊の蘭茂による『滇南本草』は、少数民族も含めた雲南の地の薬用植物資源の利用状況をとりまとめたものだ。雲南安寧人の楊一清(1454年~1530年)は、明代の著名な政治家であり詩人でもあった人物。四川新都人で名門出身の楊慎(1488年~1559年)は、1511年、科挙の試験の殿試の首席合格(状元)となったが、議大礼事件で雲南の永昌に流され、博学で詩をはじめ雲南に関する数多くの著述を残した著名な文学家だ。

 明代では、少数民族出身の傑出した漢文詩人・木公(1494年~1553年)が登場する。雪山または万松と号した木公は、麗江納西族出身で、『明史・土司伝』にも、”雲南諸土官中、知詩書、好礼守儀、以麗江木氏為首”と記されている世襲の麗江納西族木氏土官の家に木定の長男として生まれ、父親の死去後、1527年に第8代土官として世襲職を継いだ。当時の雲南名士の張志順、張含、大理太和人で著名な白族学者の李元陽(1497年~1580年)らと交流し、雲南に流されていた楊慎の知己も得ている。担当(1593年~1673年)は、雲南晋寧人で、詩、書、画で名を馳せた著名な僧(俗名は唐泰)。清朝中期に昆明に生れた銭澧(1740年~1795年)は、乾隆帝時期の政治家であった一方、南園と号し詩文書画で卓越した才を示した。本書で紹介されている王崧(1752年~1837年)、趙藩(1851年~1927年)、趙式銘(1873年~1942年)の3人は、いずれも大理出身の白族の学者や詩人だ。

 科技芸術篇では、3人だけであるが、陳一得(1886年~1958年)、熊慶来(1893年~1969年)、聶耳(1912年~1935年)と、雲南出身の代表的な近代の科学者・芸術家が挙げられている。雲南塩津人で雲南現代気象、天文、地震の研究者である陳一得の主要な著作は、『近30年昆明気象観測記録』『雲南気象要素之分布』『昆明水位之変遷』『大理的風』『雲南地震史之観察』『滇西地震帯』など。雲南省弥勒県人で国際的に著名な数学家の熊慶来は、教育家でもあり1937年から1949年まで雲南大学で校長を務めている。雲南玉溪人で中華人民共和国国歌になっている義勇軍行進曲を作曲した音楽家・聶耳は、1935年、神奈川県藤沢の鵠沼海岸で遊泳中、波に呑まれ24歳の若さで亡くなっている。

■政治軍事篇
・庄蹻(戦国末期楚国人、生没年代不祥)
・孟獲(生没年代不祥)
・皮邏閣(697年~748年)
・段思平
(893年~944年)
・賽典赤・贍思丁(1211年~1279年)
・鄭和(1371~1433年)
・杜文秀(1823~1872年)
刀安仁(1872~1913年)
李根源(1879~1965年)
・蔡鍔(1882~1916年)
唐継堯(1883~1927年)
龍雲(1884~1962年)
盧漢 (1895~1974年)
羅炳輝(1897~1946年)
張伯簡(1898~1926年)
張冲(1900~1980年)
周保中(1902~1964年)

■文化教育篇
・蘭茂(1397~1470年)
楊一清(1454~1530年)
楊慎(1488~1559年)
木公(1494~1553年)
李元陽(1497~1580年)
担当(1593~1673年)
・孫髯(1711~1773年)
銭澧(1740~1795年)
師范(1751~1811年)
王崧(1752~1837年)
趙藩(1851~1927年)
袁嘉谷(1872~1937年)
趙式銘(1873~1942年)
艾思奇(1910~1966年)

■科技芸術篇
陳一得(1886~1958年)
熊慶来(1893~1969年)
聶耳(1912~1935年)

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