メコン圏に関する英語書籍 第4回「THE CAMBODIA LESS TRAVELED」(Ray Zepp 著) (1)

メコン圏に関する英語書籍 第4回「THE CAMBODIA LESS TRAVELED」(Ray Zepp 著) (1)


「THE CAMBODIA LESS TRAVELED」【英語】(Ray Zepp 著、BERT’s BOOKS(プノンペン)、1996年10月発行) (1)

ほとんどの旅行者にとって、カンボジアといえば、首都プノンペンとシアムリアップのアンコールワットであり、その他の地域に関心が向けられることはほとんどなく、当然カンボジアの地域情報も非常に偏ったものになっているといえる。カンボジアを丸ごと深く感じ理解したいと思っている人たちや、カンボジアが好きになりカンボジアのありのままの魅力にもっと触れたいと感じたい人たちにとって、カンボジア各地への旅ガイドブックは貴重であろう。

本書は、そのような思いから、在プノンペンのアメリカ人が著した書であり、カンボジア東北部・中部・南部の各地域への旅の様子がことこまかに書かれている。地方の町のなかの各種情報(見所、宿泊場所、飲食場所など)だけでなく、そこへのアクセス手段に関しても方法や所要時間、値段、道路の状況など、詳細な地図もついていてガイドブックとしても有用だ。また産業・社会・自然などに関する情報やニュースも盛り込まれ、各文章から、カンボジアを愛し深く付き合ってきた著者の観察や感じ方を随所に窺い知ることができ、読み物としても面白い。

 また、カンボジアが、余りに危険な地域として描かれすぎていることに対し、多くの地域は安全・平和で豊かな美しいところであり、温和で心優しい人たちが多いという事をもっと知ってもらいたいという思いもあるようだ。もちろん手放しでどこも安全で気をつける必要がないといっているわけではなく、治安情報に関しても本書の各所で触れている。もっともカンボジア内戦開始前のクメールルージュがまだ活動していた96年時点の情報となっており、現在では大幅に変わっているはずだ。

 著者がプノンペン以外のカンボジア地方に行った最初の地で、カンボジア地方に魅せられるきっかけとなったのが、最南部のカンポット(Kampot、プノンペンからバスで約3時間)だ。1994年に3人の西洋人観光客が誘拐殺害された事件を始めとするクメールルージュによる殺戮事件がこの地域周辺で続発したために、一時は非常にイメージダウンした地域である。州都カンポット以外では、東に25kmのケップ、西に41kmのボコールと、かつてフランス植民地時代避暑地であった地の紹介がある。著者はアメリカ人ではあるが、フランス植民地時代の雰囲気を感じさせるコロニアル風の建築(ポルポト時代に破壊されてはいるのだが)に関心があるようで、他の地域紹介でも取り上げている。

カンボジア南部では、プノンペンからバスで約3時間のビーチリゾートで且つ国際貿易港でもあるシハヌークヴィル(旧名コンポンソム)についても、高台にある市の中心街、3つの主要ビーチ、ナイトスポット、レストランやPueh島などについて紹介しているが、この地では何かをすす場所としてではなく、のんびりとリラックスすることを著者は勧めている。タイからの海路密輸拠点のスレゥンベルも興味をそそられる。タイ東南部=カンボジア西南部の越境海路ルート上のココンやSdech島の説明も忘れていない。

 こうした沿岸部以外のカンボジア南部としては、一時、扶南国や真臘国の都であったと見られるアンコール・ボレイ(現在の町とそこから5km離れたPhnom Da遺跡)関連の説明が詳しく、さらにプノンペンから国道2号線を南下しての行程上のトンレ・バティ、プノムチソール遺跡も紹介されている。タケオの町も、アンコールボレイへの別の行き方の中で言及されている。プノンペンからシハヌークヴィルへの国道4号線南下途中(プノンペン空港から約78km地点で4号線から西に入り約25km)には過去50年強でいろんな歴史をみたキリロムの地がある。同地は1944年にシハヌーク王によって森林保護地区と指定されたが、1940年代後半は、フランスからの完全独立を求めるクメール・イサラクゲリラ活動の拠点となり、1960年代には王室や富裕層の別荘地となった。しかしポルポト時代に破壊され、1992年までクメールルージュの支配地であった。政府軍支配に移った後、1993年に国立公園に指定され1995年にオープンしている。

次回は、同書より、カンボジア中央部及び東北部を紹介する。

<注釈>

カンボジアの行政区画 19の省と2都
<東北部>
ラタナキリ州(州都バンルン)
ストゥン・トレン州(州都ストゥン・トレン)
クラチエ州(州都クラチエ)
モンドルキリ州(州都センモノロム)

<中部>
プノンペン都
コンポンチャム州(州都コンポンチャム)
コンポントム州(州都コンポントム)
コンポンチュナン州(州都コンポンチュナン)

<南部>
シハヌークヴィル都
・プレイヴェン州(州都プレイヴェン)
・スヴァイリエン州(州都スヴァイリエン)
カンダル州(州都タクマウ)
タケオ州(州都タケオ)
カンポット州(州都カンポット)
コンポンスー州(州都コンポンスー)
コッコン州(州都コッコン)

<西部>
プリヤヴィヒヤ州(州都トゥベンミヤンチェイ)
シアムリアップ・オッドーミヤンチャイ(州都シアムリアップ)
ポーサット州(州都ポーサット)
バッタンバン州(州都バッタンバン)
バンテアイミヤンチャイ州(州都シソフォン)

関連記事

おすすめ記事

  1. メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らす Vietnamese Style」(石井 良佳 著)

    メコン圏関連の趣味実用・カルチャー書 第10回「ベトナム雑貨と暮らすVietnamese Style…
  2. メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著)

    メコン圏を舞台とする小説 第50回「バンコク喪服支店」(深田祐介 著) 「バンコク喪服支店」(…
  3. メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・ラー 編著)

    メコン圏題材のノンフィクション・ルポルタージュ 第31回 「アキラの地雷博物館とこどもたち」(アキ・…
  4. メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川口 敏彦 著)

    メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第31回「メコン川物語 ー かわりゆくインドシナから ー 」(川…
  5. メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人」(土生良樹 著)

    メコン圏と大東亜戦争関連書籍 第8回「神本利男とマレーのハリマオ マレーシアに独立の種をまいた日本人…
  6. メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松本剛史 訳)

    メコン圏を描く海外翻訳小説 第18回「ヴェトナム戦場の殺人」(ディヴィッド・K・ハーフォード 著、松…
  7. メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」(著者:深谷 陽)

    メコン圏が登場するコミック 第23回「密林少年 ~Jungle Boy ~」 (著者:深谷 陽) …
  8. メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田竹二郎 訳)

    メコン圏現地作家による文学 第16回「田舎の教師」(カムマーン・コンカイ 著、冨田 竹二郎 訳) …
  9. メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとクオン・デ」(白石昌也 著)

    メコン圏対象の調査研究書 第29回「日本をめざしたベトナムの英雄と皇子 ー ファン・ボイ・チャウとク…
ページ上部へ戻る