メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第8回「ビルマからの報告」イラワジ川筏紀行(NHK取材班)

メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第8回「ビルマからの報告」イラワジ川筏紀行(NHK取材班)


「ビルマからの報告」イラワジ川筏紀行(NHK取材班、日本放送出版協会、1985年10月発行)

<著者紹介> NHK取材班(発刊の1985年当時)
小川和之(シンガポール支局長)、 智片通博(バンコク支局カメラマン)、江口三朗(報道局センターディレクター(大阪外国語大学ビルマ語科卒業))

世界各地の現代事情をNHK取材班が紹介する”NHK海外シリーズ図書”が日本放送出版協会から発行されているが、本書も、1984年末にNHKによって行われたビルマ取材をまとめたもので、この模様はNHK特集「ビルマ筏紀行」としてテレビ放映もされている。

サブタイトルにも”イラワジ川筏紀行”とあるように、イラワジ川を切り口にした紀行物である。中国チベット高原に源を発し、ほぼビルマの中央を北から南に縦断する全長2090キロの大河・イラワジ河を下りながら、イラワジ河から歴史や人の営みを見つめる事は、確かに車での移動では見ることが出来ないものが見えてくるであろう。しかもその川くだりが、豪華客船といったものではなく、壺筏とかチーク筏で下るというのだから面白い。これらの筏は、けっして突拍子もないものではなく、現地の生活事情から生まれたもので、イラワジ河をいく筏には、壺筏、チーク材運搬用のチーク筏以外にも、上流の竹林から切り出した竹を運ぶための巨大な竹筏、流木ばかりを集めた流木筏と、様々な筏が利用されている。

イラワジ川筏下りの出発点は、壺筏の村・ヌエニェインだ。マンダレーから70km北のシングーの町があるが、ヌエニェイン村は、イラワジ河を隔てた西の対岸にある。この村で長年生産されている壺が全国に出回っているが、面白い事にその輸送方法が、壺そのものを浮きにして筏を組み、筏の上にも壺をのせ物資集散地や消費地に向け河を下るというものだ。尚、この村での壺の作り方は独特で、400年以上前に朝鮮半島から伝来した鹿児島県苗代川の薩摩焼によく似ていると言う説もあるそうだ。

NHK取材班による旅は、ヌエニェイン村からサガインまで壺筏でイラワジ河を下り、サガインからマンダレーは車、マンダレーからパガンまではチーク筏でと続く。その後、パガンから東南30キロのチャウパダウンを経由してパガンから南30キロのイラワジ河沿いのチャウに、最初乗ってきた壺筏と合流すべく車で向かうが、結局次の目的地であるプロームで再度合流し、イラワジデルタまで下ろうとする(プロームからイラワジデルタを下り最終目的地ラングーンまで筏壺で下ることは最終的に許可が下りず断念)。

筏での河下りだけの情報だけでなく、商業の町・プロームをはじめ途中立ち寄る町や出会う人々の話も、ビルマの歴史・文化や生活・習慣に関する情報とともに沢山紹介されている。イラワジ河での漁・フグ(ガプーディン)、ビルマ米、チーク材、第2次世界大戦時の戦闘、ビルマ残留日本兵、漆器とパガン、イラワジ中洲の農業、イラワジ河での砂金採りなどの話もなかなか興味深い。また、本書巻末には「K君からの手紙」として、あるビルマ人青年が、毎日のようにNHKバンコク支局長に送りつづけた手紙の一部が掲載されているが、密入国や売春婦、車の闇商売など、ビルマ人にしか分からないようなビルマ事情が紹介されている。

ビルマでのカメラを回す取材ということで取材制限が厳しく、取材チームの苦労のあとが随所に伺える。特に本書の取材が行われたのが、1984年ということで、前年の1983年10月にあの韓国要人暗殺というラングーン事件が起きており、犯人がラングーン港から上陸、川を使って作戦を展開したことから、この筏紀行については特に厳しかった模様だ。はやく、自由にいろんな観点からビルマの素顔が紹介されるようになることを望んでやまない。その折には、イラワジ川紀行という点にしても、本書でカバーできなかったイラワジ川上流や下流のデルタ地帯も是非詳細に取材して欲しいものだ。

目次

はじめに
第1章 旅のはじまり
これはもう裁判だ/ 要人の車は速めに・・・/マンダレーへ/ エアコンつきの車はないのか/ シングー書記長さんは写真好き/ ゲーハーの生活/ 水と生活/ 壺作りの村ヌエニェイン/ じいさんは川へ柴刈りに・・・/ 壺筏作り/ こんなところにフグがいた/ 映画公社の人々

第2章 壺筏の旅
出発の日/ 壺筏はハレモノ/ 男たちは名コック/ ビルマ米/ 時速四キロの世界/ いよいよサガイン岩だ!/ 接岸用意

第3章 古都マンダレー
DDTと香花/ “へーホー空港爆破”の怪/ マンダレーヒル/ たった1人の竪琴職人/ 結婚式より大事な得度式/ コカ・コーラ1本720円

第4章 チーク筏の旅
チーク材と筏/ パゴダ参りはチーク筏で参ろうか/ 砂金採り/ 中州の農業

第5章 パゴダの町パガン
「ギブ・ミー・ザ・キー!」事件/ パゴダ参り/ 「コノオ金、使エマスカ?」/ 喫茶店は社交の場/ 漆器とパガン/ タナッカーは美人の秘訣/ 満月のうちに進め/ プロームへ

第6章 商業の町プローム
壺の陸揚げ/ デルタ米/ 指圧・マッサージ/ もう日本には帰りません/ 「双眼鏡を送ってください。」

第7章 首都ラングーン
喧騒の町ラングーン/ ホテル人間模様/ タクシーの運転手はヤミドル商人/ 路上の珍商売/ 全国機織りコンテスト/ ラングーンの”日本料理屋”/ ラングーン港

●K君からの手紙
あとがき

関連ワード

ヌエニェイン村の壺作り
◆ヌエニェイン、シュエグン、シュエダイの3か村(人口1700人)。ビルマ人の生活には欠かすことの出来ない、水や食料を入れるための釉薬のかかった壺を作る、ビルマでは唯一の村。(本書33ページ)
壺作りの歴史
「18世紀中ごろ、南部ビルマのモン族と戦闘を繰り広げ、全土を掌中に収めコンバウン王朝を樹立したアラウンパヤー王の本拠地シュエボーは、ヌエニェインの東20キロのところにあった。王朝を樹立したアラウンパヤーは下ビルマのぺグー、マルタバン・ダゴン周辺から、当時、高度な文化・技術を持っていたモン人の技術者集団を上ビルマに連行した。そのうち釉薬を用いた壺作り職人たちは、最初、マウー村に定着したが、材料の粘土を求めてヌエグエ山に移り住み、ヌエニェイン、シュエグン、シュエダイの3か村を築いた」(本書で引用紹介されている大野徹教授の話)
ヌエニェイン村の壺つくりが盛んな理由
(1)壺作りに適した良質の鉄分を含んだ土地があること。
(2)壺を焼くための薪がふんだんに手に入ること
(3)作った壺をイラワジ河を使って全国に輸送できること
ヌエニェイン村の壺の作り方
まず直径10センチ前後の縄状の粘土をロクロを回転させながらグルグルと円形に積んでいく。高さ50センチ、直径1メートルぐらいの椀状になると、粘土のつなぎ目を指できれいに整える。しばらく乾かし、やや硬くなると次に、同じ形の椀の口どうしを合わせ接合すると、巨大なタマゴ形の壺の原型ができあがる。その後、上に口を開け中に炭火を入れ、乾燥させる。そして天日で乾かす。

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