メコン圏が登場するコミック 第9回「ゴルゴ13・アンコールの微笑」(さいとう・たかを 著)

メコン圏が登場するコミック 第9回「ゴルゴ13・アンコールの微笑」(さいとう・たかを 著)


「ゴルゴ13 アンコールの微笑」(【SPコミックス・シリーズ94「北の暗殺教官」】、著者 さいとう・たかを、1995年5月発行、リイド社

本作品『アンコールの微笑』は、世界をまたにかけて活躍する狙撃のプロフェッショナル、ゴルゴ13(サーティーン)のSPコミックシリーズ第94巻「北の暗殺教官」(計4作品収納)に収められている1991年3月作品で、アンコール遺跡保護と盗掘の問題を取り扱っている。本作品では、ゴルゴに狙撃依頼をするのは、驚いたことに、本部がパリにあるユネスコ(UNESCO:United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization [国際連合教育科学文化機関])という設定で、アンコール遺跡を盗掘する組織の黒幕とブレーンが、狙撃のターゲットだ。

 本書ストーリーの主たる舞台は1991年初のカンボジア。当時の情勢については、本作品冒頭に、『1989年の駐留ベトナム軍の撤退以後、新たな局面を迎えたカンボジア。しかし、パリ会談、東京会議など度重なる国際和平協議もポル・ポト派の4派対等への固執により決裂。再び内戦化への危機を孕み始めている。』と紹介されている。本作品のPart 1では、「石造遺跡の危機」と題し、再開されたユネスコの保護活動のリーダーであるフランスのモーア博士と、アンコール遺跡保護事務局のカンボジア人ジャマン局長との間の会話から、人類が残した偉大な文化遺産、アンコールの石造遺跡の破壊状況が深刻で崩壊の危機にさらされていて修復保全事業が急務であること、また大規模で組織的な盗掘事件も相次いでいることが語られる。

 アンコールの石造遺跡の破壊状況については、『バクテリア繁殖によるかさぶた現象が、急激に進行している。密林の樹木は列柱を縛り、石材も動かしてしまう。1970年代のポル・ポトとロンノル軍との内戦では、銃弾が容赦なく撃ち込まれ、60体以上の仏像がハンマーで砕かれた。薬剤浄化と軟性コンクリートの治療だけでも、少なくとも、2年はかかるが・・・我々が、今、守らねば、この人類の偉大な遺産は確実に崩壊する』と書かれ、モーア博士は、「この、人類の偉大な遺産を、守るためなら、私は、命を賭けてもいい!」と強い決意を語る。しかし、モーア博士の息子であるフランスのソルボンヌ大学ジャレット教授は、学会の一部から、彼の強引な現地調査には破壊まがいの発掘だとの批判を受けていたが、ユネスコが新たに進めようとする遺跡保護は必要がなく、考古学的な発見の方が数倍重要との考えから、父のモーア博士が進める保護プロジェクトを激しく非難し保護プロジェクトへの参加を拒否する。

 一方で、大規模で計画的な盗掘犯組織を壊滅させるべく、自らの調査で、盗掘組織の黒幕らしい男の正体をつかんだジャマン局長は、モーア博士の協力を得て、盗掘の動かぬ証拠をつかむために、おとりを仕掛けるが・・・。ジャマン局長は何者かに殺害され遺体がメコン川の上流で発見される。ジャマン局長がにらんだ男が盗掘団の黒幕だという確かな情報を入手し、しかもカンボジア政府ではその男の動きを阻止することができないとわかったユネスコは、極秘でゴルゴ13に盗掘組織の黒幕の狙撃依頼を決定する。その話を聞いたモーア博士は、学問への冒瀆は許しがたく、また親友ジャマンのためにも、盗掘組織のブレーンに対する狙撃依頼の追加を求めることになる。

 本作品では、アンコールワットをはじめ、タ・プローム、バンテアイスレイなど、アンコール遺跡群がストーリー展開上で登場するが、優美な微笑を漂わせているデバダー(女神像)も魅惑的に描かれている。ジャマン局長とモーア博士が盗掘組織に対して仕掛けた”罠”が最後に活きてくるが、どのような罠がどのように活きてくるのか、ということも本作品の面白さの一つであろう。シェムリアップにあるアンコール遺跡保存事務所収蔵庫と思われる場所で、モーア博士とジャマン局長が、1971年のアンコール遺跡での最初の出会いを回想する場面があるが、1970年に内戦が勃発し、アンコール地域を支配したカンプチア民族統一戦線(FUNK)の実権を握った赤色クメール(カンプチア共産党)は、1972年初頭にユネスコのアンコール遺跡群の修復保全事業を禁止、激戦場となったアンコール地域での遺跡の保護作業は中断され遺跡も銃火に傷ついた。

 尚、ユネスコは、1989年5月にカンボジアにおいて和平交渉が開始されたのを機に、この遺跡についての現状調査ミッションを派遣し、アンコール遺跡救済活動を開始。本作品発表(1991年3月)後の1991年10月の和平合意成立を受けて、アンコール遺跡に対する国際的援助が活発化し、1992年、ユネスコの「世界文化遺産」に登録され、緊急の救済措置が必要とされる「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録された。その後、日本を初めとする国際社会からの支援の結果、2004年7月の第28回世界遺産委員会において「危機にさらされている世界遺産リスト」からの除外が決定されている。

 SPコミックシリーズ 『ゴルゴ13シリーズ(94)・北の暗殺教官』 目次
■「北の暗殺教官」   <1989年5月作品>
■「誇り高き葡萄酒」   <1990年11月作品>
■「クラウン夫妻の死」   <1992年2月作品>
■「アンコールの微笑」   <1991年3月作品> 

「アンコールの微笑」目次
・PART 1   石造遺跡の危機
・PART 2   父への批判
・PART 3   盗掘された仏像
・PART 4   盗掘団の黒幕
・PART 5   遺跡保護への決断
・PART 6   レプリカは完成した
・PART 7   突然の発表
・PART 8   動かぬ証拠
・PART 9   ジャマン殺害さる
・PART 10  鑑定依頼
・PART 11  回廊の死角
・PART 12  死の学会発表

本書収録作品の主な登場人物
・ゴルゴ13
・モーア博士
・ジャレット(モーア博士の息子)
・ジャレットの妻
・ジャマン(遺跡保護事務局局長)
・ソルボンヌ大学での会見出席の記者団
・ジャマン局長の助手達
・遺跡盗掘実行犯グループ
・チョウ・イースー(香港の貿易商で骨董品を扱う商人)
・チョウの愛人
・青盛(日本人コレクター)
・学会参加者達

本書収録作品の主なストーリー展開場所
・カンボジア(プノンペン)(シエムリアプ)
・フランス(パリ郊外)(パリ)
・香港
・日本(富士山麓)

本書収録作品のストーリー展開時代
・1991年 ・1965年冬 ・1971年(回想)(モーアとジャマンのアンコール遺跡での最初の出会い)

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