メコン圏が登場するコミック 第18回「ギャラリー フェイク第13集・カンボジア クエスト」(著者: 細野不二彦)

メコン圏が登場するコミック 第18回「ギャラリー フェイク第13集・カンボジア クエスト」(著者:細野不二彦)


「ギャラリー フェイク」第13集◆カンボジア クエスト (著者:細野不二彦、発行:小学館 ビッグ コミックス、1998年8月発行》

漫画家・細野不二彦 氏(1959年~)が、第41回(1995年)小学館漫画賞を受賞した作品で長期連載を続け、2005年にテレビ東京系列でアニメ化もされた人気作品『ギャラリーフェイク』(Gallery Fake)は、小学館の青年向け漫画雑誌『ビッグコミック スピリッツ』にて、1992年より不定期連載で開始し、2005年に全32巻で完結したが、その後、2012年に復活し、今なお、『ビッグコミック増刊』にて連載中。表向きは贋作・レプリカ専門のアートギャラリー『ギャラリーフェイク』のオーナー、フジタ レイジ(藤田玲司)を主人公に、様々な登場人物と様々な美術品を通じて、アートをテーマとした基本1話完結のショートストーリーが展開される。

本書は、単行本『ギャラリーフェイク』(Gallery Fake)第13巻(小学館 BIG SPIRITS COMICS、1998年8月発行)で、表題の「カンボジア クエスト」は前編後編の2話1エピソードとなっているが、他は全て1話1エピソードで、8エピソード収録で、初出は、『週刊ビッグ スピリッツ』1997年第25号、第27号、第31号、第33号、第35号、第38号、第40号、第42号、第44号掲載の9作品。

『ギャラリー フェイク』のエピソード「カンボジア クエスト」は、ポルポト派の支配地域が残る1990年代のカンボジアが舞台。かつて爆発的ヒットゲームを輩出しゲーム界で人気を博するもこの2,3年、スランプに陥り人気低落のゲームデザイナーのリッキー吉村は、大ヒットを狙う新作の構想を得るため、現地で素晴らしいインスピレーションが沸くことを期待し、カンボジアへと向かう途中、機内で、カンボジアのプノンペンにビジネスで向かう「ギャラリーフェイク」オーナーのフジタと知り合う。

フジタは、プノンペンで美術商「TAN ART GALLERY」のタン・ノルから、幻の秘宝”東洋のモナリザ”を含む一級品のクメール仏像ばかりを隠匿している人物が資金調達のために仏像を売り払いたいとして、一緒にポル・ポト派支配下のパンチェイ村に出向くことを誘われるが、タン・ノルは、フジタと商談中に踏み込んできたカンボジアの警察に、ポル・ポト派のスパイということで射殺され、フジタもポル・ポト派のスパイの容疑で投獄されてしまう。一方、リッキーはアンコールワットを取材したものの、スランプ脱出の鍵をつかめずにいた。

アイデアにつまったリッキーは、道中耳にした「幻の密林寺院」の噂を信じ込み、カンボジア北西部に勢力を持つ反政府組織ポル・ポト派(クメール・ルージュ)の支配地域に乗り込むことを決意。彼はふと手にした新聞でフジタが拘束されていることを知り、裏の世界に通じているフジタに案内を頼むことを思い付く。リッキーの立て替えた保釈金によってフジタは無事釈放されるが、ポル・ポト派に顔が利くタン・ノルは殺されており、パンチェイ村に行く手立てがない。二人が途方に暮れていると、話を立ち聞きしていた同村出身のストリートチルドレンのコンポン少年がガイド役を申し出た。それぞれの思惑を胸に、パンチェイ村への旅が始まるというストーリー展開。ゲームデザイナーの復活作のゲームのことで飾る本作のエンディングが見事。

本書で、フジタが手に入れたかったのは、バンテアイ・スレイ遺跡の彫像と、表明しているが、このアンコール・ワットの北東部にあるアンコール遺跡の一つのバンテアイ・スレイは、精巧で深く彫られた美しい彫刻が全面に施され、「アンコール美術の至宝」と称賛され、中でも、デバター(女神)の彫像は「東洋のモナリザ」とも呼ばれ有名であるが、1990年代前半は、ポル・ポト派との戦闘が激しく危険地域となっていた。

アンコール美術、クメール古陶の美術品の話題やカンボジア政情やポルポト派の話題以外に、ごみ拾いなどで暮らすストリートチルドレンの問題、地雷問題と地雷犬、ポルポト派によるタイへの木材の不法輸出問題、カンボジア西北部を支配していたポルポト派と隣国タイとのビジネス関係などの社会・時事問題にも言及。興味深いのは、フジタたち一行が、カンボジア西北部の山岳地帯のポルポト支配地域に潜入するのに、プノンペンから南に向かい、船をチャーターして海路でタイに密入国しタイ国境から移動する点であろう。

この単行本「ギャラリークエスト」第13集には、カンボジアを舞台とした「カンボジア クエスト」以外にも、他7作品が掲載されているが、ゴッホ、左官職人と鏝絵(こてえ)、フランシスコ・デ・ゴヤ作の「アルバ侯爵夫人」などのテーマや、また美術修復作業の話など、いずれも非常に面白い。日本の地方も含む世界各地が舞台となっているし、主人公のフジタは、単なる守銭奴・単なるビジネスマンではなく、アートへの奉仕者、美の探求者としての人物として描かれていて、博識であり批判精神強く魅力的だが、エピソード毎の多彩な登場人物も多く、「カンボジアクエスト」には登場してこなかったが、レギュラー、準レギュラー的な登場人物のキャラクターも魅力的だ。

■主たる登場人物
・フジタレイジ(美術商)
・リッキー吉村(ゲームデザイナー)
・サムナン大佐(ポル・ポト派の一分はを率いる軍人)
・タン・ノル(プノンペンの美術商)
・コンポン(ストリートチルドレンの少年)
・リン(コンポンの妹)
・クム(地雷犬)
・井上(在プノンペン日本大使館員)
・リッキー吉村と付き添いのゲーム業界関係者
・カンボジア警察
・サムナン大佐の支配区域のゲリラたち

■「ギャラリーフェイク」第13集 《発行:LINE Digital Frontier、2018年9月発行》
ART 1 カンボジア クエスト(前編)、カンボジア クエスト(後編)
ART 2 連立不当方程式
ART 3 左官魂
ART 4 聖なる宝石
ART 5 メトロポリタンの一夜
ART 6 化石をめぐる人々
ART 7 修復家の館
ART 8 ”アンティーク・オルゴールで子守唄を”

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