メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第2回「中国国境列車紀行」(松本十徳 写真・文)後編

メコン圏の写真集・旅紀行・エッセイ 第2回「中国国境列車紀行」(松本十徳 写真・文)後編


「中国国境列車紀行」(松本十徳 写真・文、近畿日本ツーリスト、1998年1月発行)前編

<著者紹介> 松本 十徳(まつもと・かずのり)
アジア各方面を取材し、現在フリーカメラマンとして活躍中。著書に『亜細亜看看』(徳間文庫、1995年発行)などがある。広島県出身。千葉県柏市在住<発刊当時>

著者は、カメラマンとして以前より中国各地を何回となく撮影で廻り、中国国内はもとより国境周辺なども取材してきただけあって、一般の日本人にとってはまだ快適な旅とはいえない中国の列車の旅を、色々観察をしながらタフにこなしている。

今交通の主役は飛行機ではあるが、大陸での陸路鉄道の旅は、大きな拠点を点で結ぶだけの航路と違い、町や人々の表情を等身大の姿で十二分に映し出してくれる上に、地域の置かれているポジションや鉄道輸送の重要性を再認識させてくれるものであろう。特に陸路鉄道での国境越えがイメージしにくい島国の日本人にとっては、国境鉄道の旅は、非常に有意義なものではなかろうか?

ここでは、同書から、メコン圏に関係する2路線を紹介し、前回の北京=ハノイ間路線につづき、ハノイ=昆明北駅間路線を取り上げる。

滇越鉄道(ハノイ=昆明北駅)
1997年4月より、ハノイ=昆明(昆明北駅)間は直通の国際列車として再開運行されているが、著者は1997年2月に旅をしているため、旅客用としてはまだ直通となっていない。そのため、ハノイ駅から中国との国境のラオカイまで行き、そこで国境を徒歩で渡り、中国側の国境の町・河口から昆明駅の列車に乗り込んでいる。

このハノイ=昆明間の滇越鉄道は、もともと、フランスがインドシナに進出した後、雲南省にまで覇権を伸張させて建設したもので、当時は「インドシナ雲南鉄道」と呼ばれた。路線の建設には、約10年の歳月を要し、1901年から始まった工事は、1910年に完成している。この鉄道は全長約850キロで、ベトナム国内と同じ「メーターゲージ」(1000ミリ軌間)といわれる狭軌鉄道である。中国国鉄では、ほとんどが標準軌(1435ミリ)であるなか、数少ない狭軌路線といえる。

ハノイ駅ではサイゴン方面に行く場合とは多少離れたところにラオカイ方面行きの駅があるのだが、著者は、夜21時ハノイ発のラオカイ行き列車に乗り込む。真夜中に中間地点のイエン・バイ駅に停車し、翌早朝、左手に雲南省に源を発しハノイからトンキン湾に注ぐ大河・紅河が見えて間もなくして、朝7時10分、国境駅であるラオカイ駅に到着。ラオカイでは外国人旅行者がなにかと金をせびられる話をよく聞くが、著者も、イミグレーション職員ではないが、チケット代について、駅の係員たちや近くのバイクタクシーのドライバーと怪しげではっきりしない金のやり取りをする羽目になっている。

ラオカイ駅から国境の中越大橋まで約3キロ。出国手続きを終わらせ、約100メートルほどの中越大橋(中央に線路が引かれている)を渡る。中越紛争で中断破壊されていた橋が1993年5月18日に完成し14年ぶりに再開したものだ。今度は中国側の河口で入国手続きをし、河口駅で昆明行き(現在、中国では昆明北駅~河口駅間は、昆河線という)の乗車券を買い求め、13時30分に河口駅を発つ。海抜468メートルの河口から、1892メートルの昆明まで登っていく山岳鉄道で、蛇行が続く。

21時30分、列車は河口と昆明間のほぼ中間に位置する開遠に到着。ここの海抜は1059メートルであり、ここから列車は工程200キロを、最高2026メートルの水塘駅まで登っていく。早朝6時、終点の昆明に到着。但し到着するのは、各主要路線のターミナルとしての昆明駅ではなく、昆明北駅である。

山岳地帯のローカル駅でサトウキビの束を売りに来るミャオ族の人たちの様子をはじめとして、停車駅の様子、車内の様子、車両についてなど、いろんな話が紹介され、しかもカラー写真も掲載されている。

尚、昆河鉄道からの支線とその路線上の町・箇旧や建水についても著者はその紹介にページを割いている。とかくハノイ=昆明間を鉄道で通り抜けるだけの人が多い中で、この紹介は興味深い。草壩駅から草官線、蒙宝線が分岐し、石屏方面(130キロ)の路線があるが、インドシナ雲南鉄道が全通した3年後の1913年に箇碧鉄道として開通した鉄道だそうだ。箇旧~鶏街~蒙自~碧色寨間(箇碧鉄道は、碧色寨駅でインドシナ雲南鉄道に接続されていたが、その後、接続駅は草壩駅に変わっている)の73キロに引かれた線路の幅は600ミリであり、鉄道ファンの間では、知られたポイントであったようだが、今では1000ミリとなっている。

『中国国境列車紀行』の目次

第1章 国境の南3000キロの旅・・北京=ハノイ
第2章 雲南の山岳地帯を行くメーターゲージ列車・・ハノイ=昆明北 滇越鉄道
第3章 知られざる近くて遠い国へ・・北京=平壌
第4章 中国・ロシア国境買出し列車(幻の東清鉄道)・・ハルピン=ウラジオストク
第5章 遥かなりシルクロード列車・・ウルムチ=アルマトイ
第6章 砂漠と草原を行く列車・・集寧南=ウランバートル

関連データ

中国から国境を越えて隣国ヘ向かう国際列車9路線(1997年11月現在)
●中国=ベトナム間
・北京西駅~ハノイ 週2本
・昆明北駅~ハノイ 週2本
●中国=北朝鮮間
・北京駅~平壌 週4本
●中国=モンゴル間
・北京駅~ウランバートル 週4本
・フフホト(呼和浩特)~ ウランバートル 週2本
●中国=ロシア
・北京~ウランバートル経由モスクワ 週2本
・北京~東北地方の満州里経由モスクワ 週2本
・ハルピン東駅~ウラジオストク、ハバロフスク 週2本
●中国=カザフスタン
・ウルムチ(新疆ウイグル自治区)~アルマトイ 週2本

ハノイ~昆明北駅行き 直通国際列車は週2本
ハノイ 0km → ラオカイ 293km → 河口 297km → 開遠 517km → 宣良 695km →   昆明北 765km
現在は、ハノイ~ラオカイ~河口~昆明(昆明北駅)に直通国際列車が運行されている(週2便)。直通国際列車以外に、ハノイ~ラオカイ 河口~昆明間はそれぞれ毎日運行している。

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